2018年2月3日土曜日

Questyle CMA400iとCMA600iの試聴レビュー

このあいだQuestyleのポータブルDAP「QP2R」を買ったところ、かなり満足しているので、同じメーカーの据え置き型DACアンプの方はどうだろうと思い、CMA400iとCMA600iを試聴してみました。

Questyle QP2R、CMA400i、CMA600i

中国Questyleはヘッドホン業界の新参メーカーで、しかもあまり目立たないオーソドックスなデザインですが、値段も妥当な範囲で、バランス出力などのトレンドもしっかりカバーしており、色々考えると悪くない選択肢になるかもしれません。


CMA400i・CMA600i

このシリーズはまず上位モデルのCMA600iが2016年8月に約16万円で登場し、その一年後CMA400iが2017年11月に約11万円で発売されました。どちらもコンセント電源駆動のUSB DAC+ヘッドホンアンプ一体型の卓上ユニットです。

ちなみにCMA600iと同じ時期に、さらに上位のCMA800iというのも登場したのですが、こちらは32万円もするので、今回の試聴からは除外しました。

QP2RとCMA400iの組み合わせ

CMA600iとCMA400iのスタイリングは似ているのですが、細かい点では違いも多いです。とくにCMA400iの方が設計が新しいだけあってCMA600iから進化している部分もあり、単なる下位モデルというわけにはいかないのが悩ましいところです。

CMA400iの方が小さいです(比較のためChord Hugo2も置きました)

シャーシサイズはCMA400iの方が横幅・奥行きともに若干小さいです。フロントパネルを見ると、CMA600iではトグルスイッチでUSB・S/PDIFを切り替えるのみなのですが、CMA400iはプッシュボタンになり、さらに再生中のサンプルレートもちゃんと表示されるので、ハイレゾフォーマットが正しく届いているか確認できるようになったのは嬉しいです。

CMA600iとOTG接続
CMA400iとOTG接続

どちらもAK70MKIIからOTG接続してみたところ、DSDやハイレゾPCMも問題なく再生できました。Questyle QP2Rから光ケーブルでのS/PDIF接続も大丈夫でした。DACアンプとして期待通りの挙動なので、これといって書くことが思い当たりません。

CMA600iのINPUTトグルスイッチは「USB」と「DIGITAL」というランプが切り替わるので、イマイチわかりにくいのですが、DIGITALというのはようするに光・同軸S/PDIF入力のことです。CMA400iのようなサンプルレート表示は無いのですが、DSDを正しく受信した場合はDSDランプが点灯するのはありがたいです。

CMA400iでちょっと気になったのは、PCM352.8kHz(いわゆるDXD)をOTGで送った際、DAP側では352.8kHzと表示されるのですが、CMA400iのランプは(352.8/384kHzランプがあるにもかかわらず)176.4/192kHzが点灯していました。音はちゃんと出るので、あまり気にしない事にします。

CMA400iは2.5mmバランス出力もあります

興味深いポイントとしては、CMA400iのみ、4ピンXLRの隣に2.5mmバランス出力端子も用意されています。

近頃はほとんどのポータブルDAPが2.5mmバランス端子を採用しているので、イヤホンをバランス化して使っている人も多いと思います。また、大型ヘッドホンでもベイヤーダイナミックなど2.5mmバランスケーブルを用意しているメーカーも増えてきたので、これらを据え置きアンプで活用できるのは便利です。

個人的には、信頼性の面からも4ピンXLRの方が優れていると思っていますが、せっかく2.5mmも用意されているので、「据え置きアンプは大型ヘッドホン用」と決めつけず、普段DAPで聴き慣れたIEMイヤホンを試してみるのも面白いと思います。

CMA600iの方は残念ながら2.5mm端子は無く4ピンXLRのみで、あとは6.35mm出力が二つあります。

機能面では色々と不利なCMA600iですが、そのかわりといってはなんですが、CMA600iのみボリュームがモーター内蔵で、リモコン操作できるようになっています。CMA400iは手動のみです。

つまりCMA400iはオーディオラックに鎮座させるというよりは、パソコンデスクなどで手元において気軽に使うのに適しており、CMA600iはもっと本格的なオーディオシステムに組み込む感じでしょうか。

どちらもRCAとXLRバランスラインプリ出力を登載しているので、ヘッドホンアンプ用途のみでなく、アクティブスピーカーやパワーアンプとの組み合わせでも使えます。さらにCMA400iの方は固定ライン出力スイッチもあるので、USB DACとして既存のオーディオシステムに組み込むにも便利です。

公式サイトから裏面レイアウトの写真

もうひとつ大きな違いは、背面写真を見るとわかるように、CMA400iはUSB・S/PDIFのデジタル入力のみで、CMA600iにはRCAアナログ入力端子があります。つまりレコードプレイヤーなど外部アナログ機器を接続したい場合にはCMA600iを選ぶ必要があります。

CMA400iには裏面にゲインスイッチがあります

あと見落としがちですが、本体裏面を見ると、CMA400iのみアンプのゲイン切り替えスイッチがあります。操作には爪楊枝が必要なので、そうそう頻繁に切り替えるものでもなさそうです。今回はSTANDARDモードのままで使いました。


CMA600i(上)とCMA400i(下)

広報試料の内部写真を見比べてみると、どちらのモデルもかなり気合が入っています。大型トロイダルトランスや電解コンなど、古典的正統派というか、ここまでガッツリ作られていると清々しいです。CMA600iは電源回路のコンデンサー列が目立ちますが、CMA400iも根本的な回路コンセプトはほとんど同じようです。

よく他社製品だと、低価格モデルはシャーシだけ上位モデルのを使いまわして、中身は余白だらけのスカスカ、なんて事が多いのですが、CMA400iの場合、シャーシは新規設計で、中身もほぼ上位相当に詰め込んでいる贅沢な仕上がりになっています。

どちらのモデルも、Questyle独自のCurrent Mode Amplificationという名称のディスクリート・フルバランス構成だそうです。基板中央には左右プラスマイナスで4つのアンプ回路が見えます。このCurrent Mode AmplificationがCMAというモデル名の由来になっているわけですが、そこまで奇抜なアイデアというよりは、ヘッドホン駆動における理想的なディスクリートアンプ設計の延長線にあるデザインだと思います。

入力された電圧信号を一旦V/I変換して電流ドメインで増幅し、出口のヘッドホン出力段で再度I/V変換で電圧に戻すという手法のようです。ヘッドホンというのは極端にノイズに敏感で、しかも幅広いインピーダンス負荷を駆動する事になるので、教科書的なオーディオアンプ回路では実現できないような、ヘッドホンに特化した駆動回路を目指したのでしょう。

D/A変換チップはどちらも旭化成AK4490を採用しており、DAC回路のレイアウトはそっくりです。細かな部分では変更点もあるのかもしれませんが、全体的な基板構成を見るかぎり、入出力端子など以外では、CMA400iは電源回路が若干簡略化されたのみで、妥協している部分がほとんどありません。

・・というか、部品を使いまわせばいいものを、シャーシも基板もCMA400iのためにわざわざ微妙に縮小して作り直していたり、無駄に凝っているところがマニアックで面白いです。

出力とか

USB入力で、いつもどおり0dBフルスケールの1kHzサイン波信号を再生してボリュームを上げた時の、クリッピング電圧を測ってみました。

最大電圧

さすがコンセント電源式アンプだけあって、かなり出力ゲインが高いです。とくにCMA400iの場合、バランス接続ではぴったりアンバランスの二倍の電圧ゲインが得られるので、さすがフルバランス設計というだけの説得力があります。

ちなみにCMA400iはバランス出力が4ピンXLRと2.5mmの二種類が用意されていますが、どちらも出力電圧はほとんど同じでした。

CMA600iの方が上位機種なだけあって、全体的にさらに高電圧が得られる設計になっていますが、どちらにせよ、ここまで出せれば音量不足になるケースは稀でしょう。低インピーダンス負荷側のカーブはどちらもよく似ているので、アンプの基礎設計は同じで、CMA400iでは電源回路を若干簡略化した感じでしょうか。

1Vppで負荷に対する変化

無負荷時にボリュームノブを1Vppに合わせたところからの、負荷に対する落ち込みを確認してみました。どれも横一直線で素晴らしいパワーを発揮していますし、バランス出力でもアンバランス並にちゃんと低インピーダンスに対応出来てきます。これはQP2R DAPでもとくに感心した部分ですが、据え置き型アンプでここまで出力インピーダンスが低いというのは珍しいです。

先日のAK ACRO L1000などもそうですが、据え置きでもちゃんと低インピーダンスのIEMイヤホンをしっかり駆動できる事が最近のトレンドなのでしょう。一方、HDV820など、高インピーダンス負荷に特化したアンプもまだまだあるので、用途に応じて正しいアンプを選ぶ事が大事です。

少し気になったのは、CMA400iのバランスXLRと2.5mmでちょっと差があったことです。AK L1000でも同じような現象があったので、真っ先に測定機器を疑うべきですが、2.5mmケーブルは1kHzで15mΩ程度だったので、影響しないレベルでした。そうなると、内部設計によるものか、コネクターに由来するものでしょうかね。何にせよ、気にする程のことでもないレベルです。

音質とか

今回の試聴では、HIFIMAN Edition XやゼンハイザーHD660Sなど大型ヘッドホンを主に使ってみました。どちらも純製(同じ線材)のアンバランス・バランスケーブルが用意されているので、聴き比べが容易です。

HD660S (バランスケーブル)

HIFIMAN Edition X

ところで、普段であればUSB接続で試聴するのですが、今回は色々と聴き比べてみたところ、CMA600i・CMA400iのどちらも、USBとS/PDIF(光)でかなり大きな音質差が感じられました。

最終的にD/Aチップに送られるデジタルデータは同じ物のはずなのですが、やはりそのへんはオーディオらしい複雑な要素が関わってくるのでしょう。音色はS/PDIFの方が好みだったので、もしかするとUSB入力インターフェースの完成度がイマイチなのかもしれません。電源やクロック生成回路の取り回しやノイズ汚染など、アナログ的に影響を及ぼす部分はいくつも考えられます。

もちろんUSB・S/PDIFのどちらも音楽そのものはちゃんと鳴るので、単純に好みの差で、USBの方が好きだという人もいるかもしれません。

S/PDIF光ケーブルで試聴しました



96kHzハイレゾダウンロードで、カラヤンとベルリン・フィルの1964年ドイツ・レクイエムが発売されたので、早速購入して聴いてみました。

決定版と名高い名盤で、さすがカラヤンはオペラ系を得意としていただけあって、圧巻の演奏です。近代的な演奏と比べるとかなりテンポが遅くじっくり進行なので心配になるのですが、途中から、合唱や弦の美しさに耳が惹き寄せられてしまい、逆にこのテンポであることがありがたく思えてきます。開幕の無音から始まる部分はテープノイズが目立つのですが、ダイナミックレンジが十分あるので気にならなくなります。むしろ旧版ではノイズカットでどれだけ繊細な質感が損なわれてしまっていたかに気付かされて驚きます。同時にカラヤン77年ヴェルディのレクイエムも発売しており、そちらも凄い演奏です。


S/PDIF接続で、まずCMA400iの方をアンバランスで聴いてみたのですが、これはかなりユニークで、しかも他のモデルでは味わえない、かなり良いサウンドだと思いました。

出音のタッチがとてもソフトで、その後の音色は綺麗に伸びてくれるので、まさにアナログっぽく、良い音が味わえるアンプです。最近のハイレゾ感を強調するような高性能コンパクトDACアンプとは一味違う「作り込まれた良いオーディオアンプで聴いている」ような感覚がとても強いです。人それぞれ求めているものは違うと思いますが、私の経験上、いわゆる古くからのオーディオファイル的なサウンドというのはこういう感じが近いです。

とくにクラシックなどは、CMA400iは良い意味で古典的なCDプレイヤーで聴いているような、刺激を抑えた見通しの良い澄んだ音色で、夢心地で音楽をずっと聴いていられます。

優しいサウンドではありますが、たとえばフォーカスが甘く霧がかかっているとか、響きが厚くコッテリという演出ではなく、もっとシンプルに、不快さが和らいでいるので、合唱や独唱でも、張り裂ける大声ではなく耳元で囁くような表現に意識が向いて、音楽が体にスッと入ってくるような良い雰囲気です。

同じQuestyleでもQP2R DAPとはかなり違う感じで、むしろ私がずっと愛用しているCowon Plenue Sに近いかもしれません。たとえばQP2Rは中高域の鮮やかさや情報がとても多く、試聴に使ったブラームスだと合唱のアルト域や弦セクションで頭の中が埋め尽くされるような感覚があるのですが、CMA400iではそのあたりの帯域がパーッと展開し、部屋からバルコニーに出たかのような空気の安らかさが得られました。Plenue Sと比べても、CMA400iの方が電源や駆動力に余裕があるせいか、空間的な部分に広々とした優越感があります。

次に同じ楽曲をCMA600iの方でも聴いてみました。基本的な音色の質感や配置みたいなものはCMA400iとほぼ同じなのですが、CMA600iの方が周波数の両極端が強調されるように聴こえました。

低音と高音が、より力強くアタックやパンチが増します。単純にイコライザーでブーストしたような感じではなく、CMA400iから上下のレンジが拡張されて、高い方も低い方も表現力の幅が広がったような鳴り方です。

どちらかというと、やはりCMA600iの方が高価なだけあって、よりパワフルで音楽の全容を鳴らしきっているという印象があるのですが、一方CMA400iの自然でリラックスできるサウンドも捨てがたく、好みは分かれると思います。


最近ハイレゾダウンロードショップで発売されたハンク・ジョーンズの「In Copenhagen」を聴いてみました。44.1kHz・24bitなので、ハイレゾと言っていいのかわかりませんが、1983年のライブ録音なので、これくらいのフォーマットで十分でしょう。

Mads Vindingとシェリー・マンとのピアノトリオで、Storyvilleレーベルですが当時のアルバムは知らないので、新鮮に楽しめます。録音はかなり良い方で、ピアノがステレオ空間を広く録っており、ドラムもシェリー・マンらしいサラッとした粋なサポートが背後を支えています。ベースのみ、私が80年代ジャズが嫌いな理由そのもので、ピックアップをDIで直接ミックスしたような、ブーブー、ボヨンボヨンという鳴り方で、しかも音場センターを占拠しているので、それだけが嫌でした。選曲はスタンダードばかりで演奏そのものは悪くないです。

CMA600iだと特にそういったベースの音が前面に来てしまい、録音の不備というか、場違いな不自然さが強調されてしまいます。CMA400iではそこまで気にならず、トリオとしてまあまあ成立しているので、CMA600iは録音の嫌いな部分も見透かしてしまうモニター的な性格も持っているようです。

欧州のライブ録音ということもあり、ピアノはキラキラ感がよく再現できており、その感じもCMA600iの方が派手に鳴ります。高音には不備のない録音なので、それがCMA600iでポジティブな方向に作用したのでしょう。一方CMA400iは録音の世代や手法なんかを気にさせず、音楽演奏のコアな部分だけをしっかり引き出してくれるようなスタイルで、むしろ細かなニュアンスや曲調の展開で生まれる雰囲気の変化を感じ取りやすいです。

これはオーディオマニアの永遠の問題なのですが、瞬間的な情報量の多い(ワイドレンジでダイナミックな)装置で、圧倒的な充実したサウンドを引き出す、というのと、逆に、情報量は限られても、時間方向で長いラインを追えて音楽の表情やストーリーを味わえる、という二つの課題があります。もちろん両立できれば最善ですが、大抵はどちらかに偏っています。

CMA400iはオーディオ機器でもたとえばヤマハ、プライマー、レガ、マイクロメガのような、あえて万能選手の超ハイエンドは目指さず、音楽ファンにアピールするリラックスしたサウンドを追求するタイプに近く、一方CMA600iはもっと一般的な「これを買えばひとまず大丈夫」という定番ハイエンドメーカーのサウンドに近づいています。

ついでにHugo 2とも聴き比べてみます

双方のサウンドをChord Hugo 2と聴き比べてみると、やはり音作りの根本的な違いがハッキリと感じられました。どれだけCMA400iとCMA600iでサウンドの違いを聴き比べていても、Hugo 2と比較すると、Questyleという枠組みの中の兄弟、似た者同士といった程度の違いでしかないことに気付かされます。

Hugo 2は言ってみれば大胆で、何もない無音の空間から発せられる楽器の音色が力強く質感が鮮やかです。ヴァイオリンならヴァイオリンそのものの胴体から発せられたトーンがビシッと全帯域整って鳴り響きます。筋が通っているというか、鳴り方がとてもハッキリしていて、情報にあふれているのに散らばらない、ギュッと凝縮されたサウンドが次々と姿をあらわすような鳴り方です。同じアルバムをこれで聴くと、ここまで個々の楽器がハッキリとシャキッとしているのかと驚かされます。

一方Questyle CMAは、楽器そのものよりも、取り囲む空間などを交えた上で、リスニングにふさわしい雰囲気を作るのが上手です。それが一辺倒なクセではなく、どの楽曲やジャンルでもそこそこ成功する上手なところに持っていけたことがQuestyleの巧みな技術なのでしょう。

価格差もありますし、個々の要素を切り取って比較するとHugo 2の方が凄いのですが、日々の音楽鑑賞に必要な要素というと、CMAでも十分すぎるほど楽しめるなという印象を受けました。


次に4ピンXLRでバランス接続を試してみたところ、CMA400iとCMA600iで変化の方向がちょっと違ったので感心しました。内部のアンプ設計はほぼ共通しているのに、不思議です。

どちらも微妙な差ですし、さらにバランス化に伴いケーブルが変わる事による変化も大きいだろうという事を踏まえた上で、ですが、CMA400iはアンバランスからバランスにすることで、中低域の厚みが増して、マイルドでありながらドッシリとした広がりを見せるようになり、一方CMA600iはアタックのパンチが増して、もっとメリハリが強調される印象でした。どちらも良い方向で両者の長所を伸ばすので、個人的にはバランス接続のほうが好ましいと思えました。

たぶんCMA400iは最初から帯域の両極端が限定的なため、バランス化したからといって出るものが無いのでしょう。この限界の低さが短所になるか、それとも聴きやすさという長所なのかが難しいところです。


ここまでS/PDIF入力だったのですが、冒頭でも言ったとおり、USB接続にしてみるとサウンドがガラッと変わります。

全体的に響きが過剰になり、ギラギラとした派手さのある、若干聴き疲れしやすいサウンドになりました。アタックのエッジが強調されるというよりも、楽器の澄んだ一音に響きが付帯して、たとえばシンバルが「シャーン」ではなく、「ギャーン」と鳴るような感じです。ピアノの低音側も「ダーン」と歯切れよく鳴るのではなく、「グワーン」と振動しているようです。電子楽器であれば個性的な倍音成分が増して面白いかもしれませんが、自然楽器だと録音環境が変わったような違和感を感じてしまいました。

この傾向はとくにCMA600iの方で目立って感じ取れました。搭載するUSBインターフェースが異なるのか、それともCMA600i自体が若干派手なタイプの鳴り方なので、より強調されるのか、例えば派手めなHIFIMAN Edition Xヘッドホンと合わせると、ちょっと聴きづらいというレベルになりました。一方CMA400iの方が本質がマイルドなので、USB接続では元気が出るというくらいで、むしろこれで普通だと感じるかもしれません。

実は、CMA400iをUSB接続した時のサウンドが、一番普通というか、私がこれまで経験してきた、この価格帯での平均的なヘッドホンアンプのサウンド(そんなものが実際あるか知りませんが)、に近いです。ただし、それでもCMA400iはS/PDIFの方が音質が良いと思えるのは、USB接続の音は他のヘッドホンアンプやバッテリー式のポタアンなどでも選択肢がありそうな、価格相応の良さも悪さもある典型的なサウンドだと思えたからです。

もしUSB接続で聴いただけだったら、「この価格帯なら十分優秀なヘッドホンアンプ」という煮え切らない印象だったところ、S/PDIFで聴いたことで、「これは・・・」と他には無い特別な魅力を感じる事ができました。そのどちらも楽しめるという事では、一石二鳥なアンプなのかもしれません。

おわりに

今回はCMA600iとCMA400iという二機種を試聴してみましたが、個人的にはとくにCMA400iに魅力を感じました。CMA600iの方がより広帯域でパワーもあるので、上位機種にふさわしい存在感は十分あるのですが、CMA400i特有の柔らかくリラックスした音色はかなりユニークで魅力的です。

また、CMA600iはUSB接続では聴き疲れしやすいギラギラ感があるのは不満でした。願わくばUSB入力のサウンドクオリティをもうちょっと高めてほしかったです。S/PDIFならば満足できますが、DSDネイティブなどUSBが必須になる場合は困ります。

CMA400iはこのクラスのDAC・ヘッドホンアンプの中でもかなり良い仕上がりだと思います。とくに同価格帯のポータブル機やDAPなどと比べると、コンセント電源らしい余裕のある鳴り方をちゃんと感じ取れるので、ポータブルに対する据え置きアンプのメリットというのを味わうにはうってつけのモデルです。

アルミシャーシも上位機種と遜色無いレベルに作られていますし、ネットワークなど余計なデジタル機能を排除して、中身は手抜きせず、本当に真面目にアナログアンプ回路の王道を攻めている事も、値段からすると充実度が高いと思います。この価格でここまでちゃんと音質最優先で作っていると、そうそう文句も言えないです。

CMA800iとCMA600i

CAS192+CMA800R


今回試聴したCMA600iとCMA400iの上に、さらに上級クラスのCMA800iと、DACアンプセパレート型のCAS192 + CMA800R、そしてCAS192 + CMA800P + CMA800R(x2)というプリアンプ+デュアルモノラル構成も存在します。

値段も800シリーズになると飛躍的に上昇し、それぞれのユニット単品で30~40万円クラスになるので、相当なハイエンドユーザー向けになります。今回はそれらもまとめて比較してもよかったのですが、話がややこしくなりそうなので辞めました。

また、完成度の面でも、とくにDACのCAS192はかなり初期の頃に登場したモデルなので、最新のCMA400iと比べると互換性や安定性が劣るようでした。いち早くトップモデルを出してしまったせいで、それらの経験を元に生み出された低価格モデルの方が色々と優れている面も多いのかもしれません。とくにセパレート型のCAS192+CMA800Rでは、アナログヘッドホンアンプ単体のサウンドは好きでしたが、DACが足を引っ張っている印象がありました。

そんなわけで、様々な開発期間を経て、今回のCMA400iでようやくQuestyleはCMAシリーズの完成形にたどり着いたと実感できました。この経験を元に、今後800シリーズの後継機なんかが登場したら、それはそれで優れたモデルになりそうですが、今現在Questyleの真打ちとなる代表作はCMA400iだと思います。