2017年5月13日土曜日

いろいろ試聴記⑤ Astell & Kern KANN

いろいろ試聴記の五回目はAstell & Kern KANNのレビューです。

2017年5月発売のポータブルDAPで、価格は12万円程度とAK DAPの中では比較的安価な部類に入ります。

Astell & Kern KANN

これまでのAK DAPとは一味違った新解釈を期待させるモデルなので、性能や肝心の音質の方はどんなものなのか興味がわきます。

(追記:ちなみに日本での発売前にどこで手に入れたのかという質問をメールで頂いたのですが、すでに先行販売されている海外にて買いました)。



AK KANN

Astell & Kern DAPについてはヘッドホンマニアであれば誰もが知っているはずなので、長話は不要だと思いますが、今回取り上げるモデル「AK KANN」の登場には、私を含めて、そんなヘッドホンマニア界隈で驚きがありました。驚いたというよりは、半信半疑だった、というほうが近いです。

そもそも新作DAP 「KANN」の情報が出回ったのが、ちょうど2017年4月1日あたりだったので、エイプリルフールだなんて主張している人も多かったです。

実際にこうやって実物が目の前にあるのですが、それでも未だに不思議というか、異質な存在のように思えます。

オーディオ部分でのAK KANNの概要をまとめると、D/Aチップは旭化成AK4490をシングルで登載しているので、これについてはAK300と同じです。(上位モデルのAK320になるとチップを左右個別のダブルで登載しています)。しかしAK300・AK320ではPCM変換だったDSDがKANNではネイティブ再生に対応しており、さらにKANNはD/A後のヘッドホンアンプ回路がAK300シリーズよりも強力で、同シリーズ用別売AMPモジュール合体時に近い高出力が得られるということです。

バッテリーが大容量化されたおかげで、再生時間が15時間になったことも嬉しいです。

外観もずいぶんユニークです。これまでのAK DAPは、アルミ削り出しの豪華なシャーシや、高級レザーケースなどを全面的に演出している高級路線というイメージがあったので、それらと比べるとKANNの風貌はずいぶんシンプルというか、ベーシックな感じがします。

最初の広報画像が出てきた時も、ただの長方形なフォルムがあまりにも安直すぎて、きっとどこかのネタ画像だろう、なんて懐疑的でした。

シンプルでゴツいデザインです

KANNのフォルムは、アルミブロックからの削り出しや複雑なダイキャストではなく、アルミ押し出し材の上下にフタをしている形状なので、たとえばiFi AudioやiBassoなどで見られるような大量生産に向いた安価な手法です。側面のギザギザ感といい、ポータブルハードディスクのケースにもよく似ています。

さらに、背面が台形に突き出したずんぐりした体型なので、より一層AK「らしくない」無骨な投げやり感があります。だからといってグラグラしてチープだというわけではなく、むしろ剛性はしっかりしているので、DAPというよりも、なんだかアメリカの軍隊や警察が使っているGPSナビゲーション装置とか、プロオーディオ機材とか、そういった業務用な感覚があります。

このFostexを連想しました・・

このフォルムで私が真っ先に連想したのは、フォステクスHP-V1という数年前にあったポタアンです。アルミ押し出し材というと、やっぱり古き良き時代のポタアンを思い出します。

手触りや重量感とか全部含めて、KANNは高級AK DAP以上にしっくり来るアットホームさがあります。「存分にオレを使い倒してくれ」と主張しているかのようです。

ボリュームノブも、AK DAPらしくカリカリ回転するエンコーダーなのですが、サイドパネルのギザギザにマッチするようなパターンになっています。個人的にはAK380のグラグラするボリュームも、AK300のチープな歯車デザインも、実用上あまり好きではなかったので、実はこのKANNのやつが一番良い感じです。回せるパーツがけっこう長いので、本体をガッと握った時に指に馴染む位置ですし、カバンやポケットの中であっても手探りで容易に回せます。

新たにライン出力専用端子があります

フルサイズSDカードスロットは珍しいです

大きな筐体を最大限に活用した、豊富な入出力がセールスポイントになっています。

本体上面には3.5mmアンバランスと2.5mmバランスヘッドホン出力の他に、ライン出力専用ジャックがあります。

残念ながら光デジタル出力兼用は廃止されたようです。一番端には電源スイッチがあります。

下面にはマイクロSDとは別にフルサイズSDカードスロットがあり、同時に併用できます。充電・データ転送用USB端子はUSB Cタイプになり、それとは別にUSB DAC・トランスポート用のマイクロUSB端子もあります。

充電しながらOTGトランスポートとして使えます

つまり、充電しながらOTGトランスポートとしても活用できるため、デスクトップでの据置き用途でもバッテリー残量を気にしなくてもよいというメリットがあります。

最初はケーブルを混乱してややこしかったです(当然ながら、USB CにOTG接続しても何も起こらないとか)。

本体下部に物理ボタンがあります

KANN独自のユニークな提案として、大きな物理ボタンが画面下に配置されています。曲戻りと曲送り、ホームボタンと再生ボタンが並んでいます。

卓上トランスポート用途として使いやすいようにという配慮でしょうか。ボタンそのものはかなり押しやすいサイズです。しっかりカチッとした感触ですし、バッグやポケットの中で誤作動する心配は無いと思います。

それよりも謎なのは、タッチスクリーン画面上で再生停止などのアイコンが無くなり、物理ボタンのみでの仕様になっています。それ以外の、たとえば選曲や時間スライダーなどはこれまでどおりタッチスクリーン操作なので、つまりわざわざKANNのために再生停止ボタンの部分をプログラムし直したというわけです。

私も、隣で使っていた友人も、画面上にある再生中(▶)アイコンを何度タップしても何も起こらないので、しばし困惑していました。

AK300+AMPとKANN

厚さは同程度です

AK240SSとKANN

AK240SSとKANN

Cowon Plenue SとKANN

Cowon Plenue SとKANN

AK300+AMPと並べてみると、KANNは縦方向に短いためコンパクトに見えます。一方普段使い慣れているAK240SSやCowon Plenue Sと並べてみたところ、やはりKANNは厚く大きく感じます。

本体重量は278gということなので、AK300の205gよりも重いですが、AK300+AMPの358gよりも軽いです。シャーシが削り出しではないため、実際に手で持ってみると、その大きさから想像するよりも軽いです。

パッケージ

これまでのAKシリーズと同様の紙パッケージで、スリップケースは灰色のコンクリートのようなデコボコしたデザインです。写真ではよく見えませんが、中心にKANNロゴがエンボスされています。

これまでのキラキラした高級志向パッケージとはうってかわり、KANNはもっと道具としての素朴な力強さをアピールしているようです。

パッケージデザイン

内箱

こんな感じに開きます

黒い紙パッケージは本のようにパカっと開く仕組みです。KANN本体は保護フィルムに包まれており、反対側には説明書類があります。

説明書

USB Cケーブル

付属品は説明書と画面保護フィルム、それとUSB Cケーブルのみです。AK DAPというと定番だった豪華専用ケースが付属していないのは残念ですが、KANNのコンセプトとしてポータブルでアクティブに使うというよりは、自宅の卓上で使うことを想定しているのかもしれません。

本体に傷がつくのが心配な人も多いでしょうから、近いうちに別売でレザーケースかなにかを販売してほしいです。

USB Cケーブルは、粗悪品を使うと充電が遅かったり、焦げたり発火するといったニュースをよく見るので、しっかりしたケーブルを付属してくれたのは嬉しいです。AKロゴ入りのカッコいいケーブルです。

AK300 +AMPの時も、充電が全然進まないというトラブルを何度も聴いているのですが、大抵オーナーが貧弱なケーブルを使ってい たというオチが多いです。たとえUSB急速充電器を使っていても、ケーブルがしょぼいとダメです。

ちなみにバッテリー50%の状態でBELKINのスマホ用2A充電器に挿してみたところ、充電中1.7Aくらい流れてました。

ソフトウェア

KANNのシステムはAK300シリーズ用をカスタマイズしたもので、ほとんどの機能はAK300シリーズと同じです。

ただし、AK300・320よりも優れた点がいくつかあります。まずDSD再生がDSD256 (11.2MHz)までネイティブ再生になったのが大きいです。さらにUSB DAC用ASIOドライバも提供されます。そのためDXD・DSD256まで再生できるようになりました。

つまり、再生フォーマットに関してはAK380相当のスペックになったということです。個人的には、AK300・320はこれらの機能は実現できるのに、あえてAK380との差別化のために出し惜しみしていた印象があったので、KANNでそういった制約が無くなったのは素直に嬉しいです。

DSD256 (11.2MHz)も再生できます

優秀な選曲ブラウザー画面です

設定画面もほぼ変わりません

スワイプメニューもAK300シリーズっぽいです

ほとんどの機能はAK200・AK300シリーズと同じなので、使い慣れていれば非常に快適です。スワイプメニューからヘッドホン出力のゲインがHIGH・NORMALから選べます。

もちろんAK DAPらしくBluetooth (aptX HD)や無線LAN(DLNA・AK Connect)も登載しているのですが、AK240SSでは結局一度も使わなかったので、今回KANNでもチェックしませんでした。

1.03にアップデート

無線LANでアップデートします

無事完了しました

これを書いている時点で、無線LANにて最新バージョン1.03がダウンロードできました。

ライン出力

新たに登載されたライン出力端子ですが、3.5mmのみでなく2.5mmバランスもあるのがユニークです。

ライン出力を接続すると警告文が出ます

ライン出力端子にケーブルを接続すると自動認識して、画面上にて音量の警告が出ます。つまり、間違えてヘッドホンを挿してしまうと、最悪2Vrms(5.7Vp−p)という爆音が発せられてしまうので、そのための安全確認です。

ライン出力電圧(RMS)が選べるようになっています

設定画面でライン出力電圧を0.7V・1V・1.25V・2V(RMS)のどれかを事前に指定しておけます。通常のアナログプリアンプやヘッドホンアンプに入れるなら1Vrmsで十分だと思いますが、選べるだけありがたいです。バランスXLRを使う場合は+4dBuというのが一般的なので、1.25Vrmsが一番近いです。

バランスライン出力を使う場合の注意点として、2.5mmコネクタは4極のみで、グラウンド線が無いため、それだけではグラウンド電位が安定せず、接続するアンプによっては電位がおかしくなって盛大なノイズが発生します。

とくにスイッチング電源(内蔵もしくはACアダプター)を使っているアンプではとんでもないノイズが出る場合があります。

やっつけですが、グラウンド線は隣からとりました

KANNはシャーシアース設計なので、たとえば隣りの3.5mmライン出力端子などからグラウンドだけもらって、アンプ側の3ピンXLRのピン1にしっかりKANNのグラウンド基準電位を固定することが肝心です。適当なケーブルを作ってみたところ、接続時にライン出力を使用しますか?みたいなメッセージが出るので、2.5mm接続の時のみ「OK」を押せば無事使えました。iFi Pro iCANのようなACアダプター式アンプでも、グラウンド線無しではジージーと凄いノイズですが、グラウンド線有りではノイズはピタッと止まります。

もちろんアンプからヘッドホンまでフルバランスであれば、信号は浮いているのでノイズは低減しますが、それでも気持ち悪いですし、微小なノイズであっても音質に影響するので、せっかくならちゃんとしたケーブルを用意したいです。

この手間を考えると、ソニー4.4mmバランス端子がグラウンドを含めた5極を選んだのも納得がいきます。

さらにDAPの場合、バランス接続中にたとえばUSB充電器などを接続すると、基準電位が二点になってまたおかしくなるので注意が必要です。ちゃんとした大手メーカー製アンプであればそのへんの対策もしっかりしていますが、設計が下手なメーカー製アンプだと回り込みノイズなどで散々な結果を何度も体験してきたので、そのへんは理解した上で挑戦することが肝心です。

USB DAC・USBトランスポート

KANNとは直接関係ありませんが、最近Windows 10 Creators Updateにて、ようやくマイクロソフト標準のUSB Audio Class 2ドライバ(つまり汎用WASAPIドライバ)が実装されたので、USB DACメーカーのドライバが不要になったということです。

まだ相性問題があるみたいなので、原則としてメーカー専用ドライバをインストールするべきですが、ものは試しで、AKドライバをインストールせずに使ってみました。

Windows 10 Creators Update

JRiverでしっかりDoP 5.6MHzが再生できました

Windows標準のWASAPIドライバにて、ちゃんと384kHz 32bit(つまりDXD相当)まで対応しています。この状態でJRiverでDSDファイルを再生してみたところ、しっかりDoPでDSD5.6までネイティブ再生できました。

普通に聴いていれば問題ありませんでしたが、パソコンやケーブルが貧弱だとプチッというノイズがたまに発生しました。

AK公式ASIOドライバを使えばDSD 11.2MHzまで行けます

無事再生できて、ノイズなどもありませんでした

KANNはAK公式サイトから専用ドライバが供給されているので、それをインストールしてみました。ASIOドライバなので、JRiverなどASIO対応の音楽再生ソフトであれば、PCM 384kHzまで全対応はもちろんのこと、DSDがDoPではなくASIOダイレクトになるため、DSD256(11.2MHz)までしっかりとネイティブで再生できました。

ちょっと使ってみた印象としては、Windows標準WASAPIドライバよりもAK公式ASIOドライバの方が安定していて、プチノイズも無かったので、一手間ですが公式ドライバをインストールすることをお勧めします。

KANNはUSBトランスポートとして外部DACへ接続する事も可能で、この機能に関してはAK70やAK300シリーズなどと同じです。ちなみにUSB Type CではなくマイクロUSBのOTGケーブルが必要です。

唯一の注意点として、KANN本体はDSD256を再生できるのですが、USBトランスポートとしてはDSD128までしか送れません(OTGはDoPなので、384kHz上限ではDSD256が送れないためです)。実際にトランスポートとしてDSD256を試してみたところ、エラーメッセージが出るとかではなく、そのまま再生を試みてジャーッ!というものすごい膨大なノイズが発せられたので、ビックリしました。危ないのでファームウェアで対策してほしいです。

SDカード

私にとってKANNの大きな魅力の一つは「内蔵64GB+マイクロSDカード+フルサイズSDカード」という三種類のストレージに対応していることです。

現状フルサイズSDは512GBが売ってますが、実売4万円くらいと高価なので、まだ買っていません。マイクロSDは256GBが最大のようです。

もし全部最大で揃えれば合計832GBものストレージが実現できるので、これはかなり魅力的です。

安価な低速品カードであればマイクロもフルサイズも値段は同じくらいなのですが、フルサイズSDカードはデジカメ用途でSandisk Extreme Proなどの高速品が比較的安価というメリットがあります。

KANNはカード二枚ということで、内蔵メモリは廃止されるのかと思っていたのですが、しっかりAK300と同じ64GBを登載しているのが嬉しいですね。

AK380やAK240には内蔵メモリが256GBもありましたが、実際に使ってみると書き込み速度が遅くて音楽を更新するのが面倒だったので、私としてはSDカードをUSBカードリーダーで書き込む方が断然使いやすいです。

これまでのAK DAP同様、ストレージ(MSC)ではなくMTP(メディア転送モード)です。MTPはマイクロソフトの規格なので、これまでどおりMacではAK公式サイトからファイル転送ソフトをダウンロードする必要があります。

MTPのおかげでパソコン接続中でもDAPとして使えるというメリットがあるのですが(たとえばPlenue Sはそれができません)、逆に不便な部分も多いので、そろそろMSCモードもオプションで選べるようにしてほしいです。

そこそこ速いカードを使ってみたのですが・・

ところで、今回KANNはUSB Type Cコネクタを登載しているので、もしかしたらクラス3(30MB/s)以上の書き込み速度が出せるのかと期待していたのですが、残念ながらそこまで速くありませんでした。

内蔵ストレージのほうが若干速かったです

ExplorerとFinderのドラッグ&ドロップと、JRiverで実際に楽曲を転送してみたところ、内蔵64GBストレージではおよそ22MB/s、マイクロSD (Samsung Evo+)とフルサイズSD(Sandisk Extreme Pro)では18MB/sと、まあそんなもんか、という程度の結果になりました。つまりUSB 2.0相当ですね。

KANNのUSB C端子は充電用と割り切って、素直に別途USB 3.0カードリーダーを使うのが賢明のようです。

これくらい出せれば良いのですが・・・

同じカードをUSB3.0カードリーダー(Kingston MobileLite G4)を使って同じように大量の楽曲を転送してみたところ、それぞれ71MB/s・76MB/sという高速な数字が出ますので、今後のDAPにはこれくらいを期待したいです。

「破損したSDカード」エラーに遭遇しました

ところで、AK240やPlenue Sで使っていたマイクロSDカードをKANNに入れてみたら、最初は問題なく音楽が聴けたのに、再起動後にいきなり「破損したSDカード」というエラーが出て、中身が読めなくなる、というのに何度か遭遇しました。

Samsung Evo+やSandisk Extreme Proなので、カードや楽曲自体に問題は無いと思います。カードのフォーマットか、特定の曲ファイルとの相性が悪いのかもしれないので、KANNの設定画面でカードを再フォーマットしてみたところ、それ以来ずっとエラー無しで使えています。

もし「破損したSDカード」と出ても、音楽ファイルが削除されるわけではなく、他のDAPでは問題なく使える状態なので、一旦カードをUSBカードリーダーでPCに接続して、「ドライブのエラーチェック」を行うと、問題が発見・修正されるようで、次回KANNに接続すると無事認識するようになります。多分KANNが自動作成するメタデータが破損しているのかもしれません。

ようするに、もしデモ試聴などで自前のカードを使う場合は注意が必要です。

出力

いつもどおり、0dBFSで1kHzのサイン波をFLACファイルで再生しながら、擬似的なインピーダンスを与えて、音割れするまでの最大電圧を測ってみました。

赤線がKANNです

さすがに高出力と自負しているだけあって、かなりパワフルなパフォーマンスを見せてくれました。設定画面でアンプのゲインをHIGHとNORMALから選べるのですが、スペックどおり、HIGHでの最大電圧は10Vp-p近く出るので、あらゆるヘッドホンをガンガン駆動できます。

並べて比べてみると、たとえばChord Mojoの方が高い電圧まで発揮できる設計になっていますが、KANNもDAPとしては非常に優秀なパワーです。このあいだチェックしたFiio X5 3rd Generationもパワフルでしたが、それよりも最大電圧が2Vほど高いです。

かなりパワフルなアンプ回路です

せっかくなのでKANNのライン出力端子も測ってみたところ、設定画面で2Vを選んでおいたら、しっかり2Vrmsが出力されます。グラフを見るとわかるように、ヘッドホン出力でボリュームを下げて2Vrmsに合わせたものと、ライン出力端子の2Vrmsでは、それぞれの特性が異なります。

AK300+AMPと似ています

というか、KANNの出力カーブはどこかで見覚えがあると思ったら、AK300のAK AMP有り無しとソックリですね。

つまりKANNのヘッドホン端子はほぼAK300+AMPと同じで、KANNのライン端子はAK300のアンプ無し(ただしボリュームは固定)とピッタリ一致します。

なぜKANNがわざわざライン出力端子を用意したのかと考えると、納得できます。これまでのAK DAPの場合は、画面上で「ライン出力モード」を選択すると、単純にヘッドホン端子のボリュームが最大になるだけのギミックだったわけですが、それはAK DAPの最大ボリュームが2Vrms程度だったから実現できたことです。

KANNでは従来モデルよりも最大電圧が大幅に上昇したため、無知なユーザーがこれまで通りの感覚でボリューム最大でライン出力に使えると勘違いしていたら、10Vp-p (3.5Vrms)が出力されて送り先の機器が音割れするか、最悪壊してしまう可能性があります。

そういったトラブルを防ぐため、内部的に「AK AMPを通す以前のAK300」っぽい出力を、わざわざライン出力用として出しているのだろうと想像します。

色々並べてみました

ごちゃごちゃしたグラフになってしまいましたが、色々並べてみると、やはりKANNのヘッドホン駆動力はAK AMP相当だということがわかります。

ゲイン設定がNORMALの場合(上のグラフでは緑のKANN LOWと書いてある線)はリミッターのように最大電圧が5.6Vp-pに制限されます。かなり低いインピーダンスまでしっかり出力がブレないのが優秀です。

とくに低インピーダンスIEMなどを駆動する際には、これまでのAK DAPではパワー不足だったのですが、KANNではその心配がありません。たとえば10Ω付近を見ると、AK380などと比べておよそ6倍のパワーアップを果たしています。

ついでにバランス出力も

追記:差動プローブがあったので、バランス出力の方も測ってみました。公式スペックではバランスで7Vrmsと書いてあるので、つまりおよそ19Vpp出るはずです。

ハイゲインモードでボリューム最大にすると、18.7Vpp程度出せたのですが、クリッピング歪みがあったため、THD1%以下までボリュームを下げたところ(147/150)、18Vpp(およそ6.4Vrms)出せました。しかも30Ω程度の低インピーダンスまでしっかり維持しているのが凄いです。

ようするに、バランス・アンバランスは単なる味付けの違いのみでなく、たとえば、ものすごく低能率で鳴らしにくいヘッドホンなどであっても、バランス接続にすることでより多くの電圧が稼げるアンプ設計になっています。

ちなみにノーマルゲインモードに切り替えれば(グラフ上ではLOWと書いてあるやつ)バランス・アンバランス双方の音量はほぼ変わらないように設計されています。こういうところはよく考えられていますね。

ライン出力もバランスの方が若干駆動電流が多いですが、本来ライン出力として使うのであれば、送り先の機器は10kΩとかでしょうから、実用上大差無いでしょう。

音質とか

音質について感想を書く前に、まず指摘しておきたいのは、AK KANNはかなり高出力なアンプを登載しているためか、Campfire Audio Andromedaのような超高感度イヤホンでは「シューッ」というホワイトノイズが目立ちました。このあいだのFiio X5 3rd Generationと同じ問題ですね。

アンプ無しのAK300やAK240、Plenue Sなどでもうっすらと聴こえますが、KANNはかなり目立って聴こえるので、自慢のハイパワーが仇になったようです。

ポーズ状態ではミュートされるので聴こえませんが、ピアノソロ曲など無音が多い曲では背景にずっと「シューッ」と鳴っているのが気になります。

ゲイン設定やボリュームノブとは連動しない一定のノイズですし、たとえばベイヤーダイナミックAK T8iE程度の感度であればノイズは気にならないので、つまり高感度すぎるイヤホンのみでの相性問題ということになります。

Andromedaは12.8Ω・115dB(/mW?)で、AK T8iEは16Ω・109dB/mWと書いてあるので、多分その辺が境界線でしょう。BAのように高域が目立つイヤホンの方がホワイトノイズは目立ちますし、どれくらい過敏になるかは、個人差と、聴いている音楽の内容によります。

なんにせよ、ここまでパワフルなアンプを登載するのであれば、アッテネーター(ソフト上リミッターではなく、本当の意味でのローゲインモード)の登載は必要不可欠だと思います。その点たとえばiFi Audio micro iDSDのように高出力でもしっかり高感度イヤホン用ステップダウンスイッチを設けているメーカーはありがたいです。

変な話ですが、たとえばKANNのライン出力端子はブースターアンプを通していない状態ですから、ホワイトノイズは少ないはずです。もちろん現状ではボリュームが固定されているためそのままではイヤホンを挿せませんが、もし可変ボリュームにすることが可能であれば、高感度イヤホン専用出力として応用できたりしたら面白いですね。

それか、不本意ですが、iFi Audio iEMatchのようなインラインアッテネーターを買うしかありません。

というわけで現状Campfire Audio Andromedaは使い物になりませんでしたが、私の手持ちでは、それ以外のイヤホン・ヘッドホンではどれも問題なく音楽が楽しめました。

今回の試聴にはUnique Melody Mavisと、ベイヤーダイナミックDT1770 PROを使ってみました。どちらもAK300などでも満足に駆動できるスペックなので、純粋に音質差のみの評価ができます。

AK300+AMPとよく似たサウンドです

まず第一印象として、KANNはやはりAK300+AMPとよく似たサウンドです。じっくり聴くと、KANNの方が中域に粘りがあって好みの音色ですが、他社のDAPと比べれば、KANNとAK300+AMPの違いはほんの僅かなものです。

ではKANNの音はどんな感じなのかというと、立体感や弾ける感じはあまり無いものの、全帯域が非常に丁寧で、若干線が細く中高域寄りですが、刺激的ではなく、とくに中域の細部ディテールがよく聴き取れるようなサウンドです。

聴き比べてみると明らかにAK300やAK320単体ではなく、AK300+AMPに似たサウンドでした。

AK300単体は、高域も低域もあまり過度に出ないカマボコのようなサウンドです。そのためボリュームを普段よりも上げてしまいがちで、中域のボーカルなどが荒っぽくなりやすいDAPだと思います。そんなAK300にAMPを装着すると、中域から低域にかけてドッシリと腰を据えたように太くなるので、聴いていて安定感があるというか、より全体が聴けている満足感があります。KANNはこれに近いです。

ちなみにAK320になると高域にちょっとしたシャープな金属感が出るようで、KANNとは似ていないことがすぐわかりました。

AK300っぽいといって話が終わってしまっては面白くないので、他のDAPと比べてみると、方向性がなんとなくわかってきます。

たとえばKANNと、私が普段よく使っているAK240SSとの違いは、AK DAP第二世代と第三世代全体の違いにも当てはまります。世代間で「音の聴かせ方」そのものが変わってきたように思います。

AK240SSを含めた、多くのメーカーの旧世代ハイエンドDAPというのは、なんというか、音色に対して何らかの表面処理をするような仕上がりを期待されていたように感じます。

たとえばAK240SSの場合、女性ボーカルであれば、声の輪郭にツルッとしたクリアな表面処理をして、メリハリが強調された鳴らし方です。

低音のベースや高音のドラムなども同様に色艶をグッと引き出す効果があるので、音楽を聴いている間、すべてAK240SSによって処理されたツヤっとした「輪郭」を追っているような気になります。

もちろんその輪郭のツルツル感というか、光り輝くような新鮮さがフレッシュでありピュアーに感じるので、高解像で全部が美しく聴き取れるサウンドだと感じます。これは高価なDAPかどうかの問題ではなく、たとえばエントリーモデルAK70でも同じような印象を受けました。

Cowon Plenue Sも、今になって最新DAP勢と比較してみると、旧世代のサウンドです。旧世代イコール悪いのではなく、例えるなら、当時50万円したような高級CDプレイヤーに匹敵する仕上がりです。Plenue SはAK240SSのようなツヤツヤした輪郭のメリハリは強調せず、中低音にゆったりとした厚みがあり、音の輪郭にビロードのような絨毯を敷くことで、音色は太く暖かく、空気を交えて、雑音は出来るだけ穏便に、響きの理想を極限まで追い求めるような感じです。若干デフォルメというか、写真がイラストになったような芸術性です。細かい情報はあえて隠すことで、音色とそうでない部分をしっかり分けて聴かせるようです。

聴かせるなんて言っても、機械がそんなことを区別できるはずが無いだろう、なんて疑問に思う人もいるかもしれませんが、それがチューニングの極意であって、メーカーが日々試行錯誤していることであり、オーディオという趣味の醍醐味です。もし部品と電子回路図の理屈のみで全てが決まるなら、そもそも半世紀以上に渡る世界的な趣味として成立していません。

AK240SS、Plenue Sのどちらも聴かせ方の個性はあるものの、クセは無く、重くも軽くもない、絶妙なチューニングであることが、ハイエンドDAPの象徴です。安価なDAPで個性をもたせようとしても、根本的に歪みやノイズがあれば、それは悪いクセに留まってしまいます。

では、AK KANNがこれら旧世代サウンドと比べてどんな風に違うのかというと、AK240SSからKANNに切り替えると、派手さが一気に薄れて、輪郭が強調されません。聴き始めた時は、なんだか音楽がサラサラと再生され、メリハリが薄く、ただ鳴っている感じがして、グッとくるものが無かったです。とくに古い録音などでは、演奏とノイズが同一面で平坦に鳴っているので、魅力が際立ちません。

しかし、実際に聴きこんでみると、最新の優秀録音であれば、AK240などでは輪郭の響きに包まれて聴こえなかった実際の中身の質感が、KANNではしっかりと繊細に聴き取れることに気づきました。例えるなら、AK240は木材の表面をピカピカに塗装した感じで、KANNはサンドペーパーで処理したサラサラの表面をじっくり観察するようです。

Plenue SからKANNに切り替えても同様で、低音のふわっとした豊かさや、リスナーを包み込むような三次元サウンド空間が無くなってしまい、酒が湧き出る泉が水に戻ってしまったかのようです。音色の美しさはPlenue Sには敵いませんが、その分、優秀な録音であればあるほど、KANNの方が包み隠さずワンステップ先まで見通せる解像感があります。

これは、恥ずかしながら、じつは最近まであまり意識していなかった事です。というか、DAPでそこまで奥深く音源のディテールを聴くメリットは無いと思っていました。AK300~AK380を発売当時に試聴した際には、その傾向が強すぎて、あえて買う気が起きなかったほどです。

しかし近頃ではハイレゾブームやDSDが流行ったりして、録音そのものの情報密度が飛躍的に上昇したというか、じっくり奥底まで聴き込むに値するアルバムに遭遇する機会が続々と増えているように思います。

これまでは自分のライブラリの10枚に1枚あればラッキー、という頻度だった優秀盤が、今では(とくにクラシックやジャズなどで)買ったアルバムのほとんどが超高音質です。業界全体がアーティストの生音をしっかり取り込むことを最優先にしている感じがヒシヒシと伝わってきます。

たとえば10年前であれば、クラシックやジャズの大手アルバムでも、じっくり聴けば聴くほどコンプレッサーのポコポコ音や、EQの背景潰れ、ホール残響の後付けエコーや、エディットの位相狂いなんかが、「それくらい許してくれよ」という前提で収録されていたのが、最近になってどのレーベルも、マイク音を取り込む作業のクオリティが格段にアップして、ミックス作業は極力最低限にとどめて、聴けば聴くほど生マイクのリアリズムが感じ取れるような仕上がりになってきています。

録音はあまりよくないけど演奏が好きでずっと聴き続けている愛聴盤は沢山あります。そんな古い録音を聴く場合には、未だにAK240やPlenue Sの方が断然好みです。艶や暖かみや立体感など、録音の不都合で失ってしまった原音の美しさを、独自の解釈で再構築してくれるかのようです。

でも最新ハイレゾ録音なんかを購入して、今夜はじっくり聴き倒すぞ、なんて心を決めた時には、KANNの方が用途に適しています。





たとえば、最近の新譜を適当にチェックして聴くのが私の日々の楽しみなのですが、4月にリリースされたネルソンス指揮ゲヴァントハウスのブルックナー3番や、ビエロフラーヴェク指揮チェコフィルのドヴォルザーク「スターバト・マーテル」など、すごい録音が続々登場しています。

ライブ公演をそのまま超高音質マイクで収録する技術が確立されているため、80年代のようにスタジオで何十本ものマイクを録り重ねて、何百個ものテイクをツギハギしていた時代とは異なります。機材の進歩のおかげで、よりリアルでライブに近い演奏が体感できます。

マニアというと、最新録音は避けて、往年の名盤ばかり後生大事に聴いている印象がありますが、現在の録音は70〜90年代のような過剰編集は廃止され、むしろ1950年代の秘蔵ライブ音源とかに近いものに先祖返りしているので、聴く価値は十分あると思います。もちろん音質は圧倒的に素晴らしいです。

とくにライプツィヒ・ゲヴァントハウスや、ルドルフィヌムでのチェコフィルといえば、世界でも屈指の音響を誇るオーケストラとコンサート会場として長年栄光を飾っている組み合わせです。

しかも、ドイツ・グラモフォンやデッカといった(どちらもユニバーサル系列ですが、プロデューサーやスタッフが異なります)大手レーベルが、ありがちな美人若手演奏家の商業主義にばかり走らず、このようなガッツリしたレパートリーを2017年の今でもしっかりプロデュースしている事自体が、音楽業界の健全さを表しています。

こんな最新録音を聴く時には、AK240SSのツヤツヤも、Plenue Sの豊かさも、むしろ必要ではなくなり、KANNのサラッとした落ち着いたクリアさで、録音に秘められた奥底まで見通したいです。



ところで、KANNで気になったポイントがもう一つあり、それはDSD再生が結構良い、ということです。

DSDの王者Channel Classicsから、フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団のマーラー3番がリリースされました。そもそも私がDSDに開眼したのが、2006年にSACDで発売された、このシリーズのマーラー2番だったので、10年越しでシリーズ最新作を味わえるのは感深いものがあります。

KANNで再生するDSDは、シャキッとしてスピード感があり、録音がとても新鮮に感じます。スピード感というのは勝手な抽象的表現ですが、アタック音の最初の部分が潰れたり鈍らずに小気味よく聴き取れるため、音色だけではなくリズムやタイミングといった音楽に重要な要素が体感できる、という風な意味合いです。

そんなKANNのDSDと比べると、Plenue Sではフワッとマイルドで、AK240SSでは軽く細い感じと、自宅で使っている据置きDACと比べるとどうしてもDAPでのDSD再生はイマイチ潜在能力を引き出せていない感じがしていたのですが、KANNではそれをしっかり披露できています。

AK300のDSD再生も、PCM変換とはいえどそこそこ良い感じで、双方を比較しても周波数的に大きな違いは無いのですが、なんだかKANNの方が活き活きしており、楽器の音がパッと耳に飛び込んでくるような楽しさがあります。PCM再生でのKANNのメリハリをつけない感じとは逆なので、やはりPCMとDSDは、録音の違いというよりは、むしろDAC内での扱いの違いが大きく異なるのだなと実感しました。

これは、このあいだCowon Plenue 2を聴いた時にも感じたことなので、もしかしたらどちらも新世代の旭化成D/Aチップを搭載していることもDSD処理に少なからず貢献しているのかもしれません。(KANNはAK4490でPlenue 2はAK4497ですが、手法は概ね同じでしょう)。

まとめ

AK KANNは、AK300+AMPよりも汎用性があり、いろいろスペックが上がっていて、小型軽量で、なんて考えてみると、なんで今このKANNというモデルを出したのか、不思議に思えます。

しかし、むしろ逆に考えると、既存技術の出し惜しみをしない、というところに好感が持てます。

最近では各メーカーから低価格で高性能を詰め込んでいるDAPが続々登場しているため、AKとしてもこのままプレミアム価格のAK300シリーズDAPだけで安泰というわけにはいきません。

出し惜しみの無い、AK300シリーズ総決算です

このKANNというDAPをあえてこの仕様で出したことは、つまりAK300シリーズの技術はこれで一段落つけて、次の主力後継機(AK400?)はこれを超える自信があるぞという意思表示のように感じました。

ではこれでAK300は不必要になるのか、というとそれはさすがAKが商売上手なところで、AK KANNの値段設定は絶妙にAK300+AMPスレスレになっていますし、あのアルミ削り出しと専用ケースの高級な質感は、KANNとは好みが分かれます。

さらにKANNほどのアンプパワーが不要だというのであれば、AK300単体の方が高感度イヤホンのノイズは少ないですし、AK320単体の研ぎ澄まされたサウンドに共感を感じる人も多いと思います。究極でAK380+AMPというコンビネーションはまた別次元の魅力があります。

こんな感じでしょうか

もしAK DAPをポルシェに例えるならば、AK200やAK300シリーズは、911スポーツカーのように、最高級のルックスとフォルムを備えながら、その中でもいくつかのグレードが選べるようになっています。一方AK70はボクスターやケイマンなど軽快なエントリーモデル、そして今回のKANNはカイエンやマカンのようなSUVみたいな存在だと思いました。

SUVはスポーツカーほどカッコよくはありませんが、悪路も遠出もOK、積載量も十分と、日々の雑用ではとても役に立つ存在です。そして必要とあらばスポーツカーゆずりの高スペックエンジンでパワフルな出力が得られる、バランスのとれた優秀な力作です。

KANNの豊富な機能性に気を取られてしまいがちですが、肝心の音質は無闇に誇張せず、中高域のディテールが丁寧に再現される、さすがAKらしい納得の仕上がりでした。

そんなAK KANNの感想を一言でまとめると、「何をするにも悪くない」という言葉が一番しっくりくるモデルだと思います。これ一台あれば、機能も音質も当面のあいだ悩む必要が無いだろうと確信できる、満足度の高いDAPです。


追記:KANNに続き、フラッグシップのA&ultima SP1000が発表されました。ステンレス&銅でAK4497 ×2、高解像画面と、かなり高スペックな仕上がりのようです。

SP1000