2016年4月20日水曜日

Fiio X5 2nd Generationのレビューと、S/PDIF DoP DSD出力について

発売からずいぶん時間が経っており、いまさら感もあるのですが、Fiio X5 2nd Generation (X5-II) を購入しました。

ゴールド、ブラックが追加されたX5-II

シンプルな操作性ながらクールなデザインと音質に定評があり、5万円台のポータブルDAPの中ではそこそこ人気があるようです。私自身はこれまでFiio X3, X5, X3-IIと乗り継いでおり、最近になってX5-IIを買いました。

購入した事情はいくつか思い当たるのですが、まず2016年に入ってから新ファームウェア「1.27 beta」で新たに「同軸S/PDIF デジタルにてDSD出力(DoP)」が出来るようになりました。これまで、このS/PDIFでDoP出力ができるDAPというのがあまり無かったので、(Cayin N5とか、AK380とか?)この時期にFiioがファームウェアで追加対応してくれたのはとても嬉しいです。(AKとかにも同じくファームウェア対応を頑張って欲しいです)。

X5-IIもそろそろ古くなってきたせいか、テコ入れのためにニューカラーも登場しましたし、せっかくなので購入を期会に再考してみようと思いました。


X5 2nd Generation

2015年の中程、X5-IIがデビューした際に、ブログで試聴した感想などを書き留めておいたのですが、その時にはまだ旧モデルの「X5」が手元にあったため、「あえて今X5-IIに買い換える程でもないかな・・」、なんて結論に至りました。

実際、DACやアナログアンプなどの基礎設計はX5とX5-IIでほとんど変わっていません。

その後、iBasso DX80を買ったり、知人からAstell & Kern AK240を中古で買い取ったりなど、色々目移りをしてX5を使わなくなったので、処分してしまいました。

それから何度か店頭の試聴デモなどでX5-IIを利用する機会があったのですが、そのたびに「やっぱり良い音だな~」なんてしみじみ思いながらも、やはりFiio特有のテキスト画面+グルグルスクロール操作はもう金輪際ゴメンだ、ということが念頭にあったため、わざわざ買う理由が思い当たりませんでした。

2016年に入って、Fiioはフラッグシップ機でスマホのようなAndroid OSのタッチスクリーン搭載「X7」を投入してきたため、「ようやくまともに使えるFiio DAPが出たな!」とワクワクして試聴してみたところ、そのサウンドはX5とかけ離れており、私の趣味には合いませんでした。

そんなこんなで、今現在はAK240をメインDAPとして使っているのですが、X5の「あのサウンド」もずっと脳裏に焼き付いており、いまさらながら買ってしまいました。

パッケージ

せっかく購入したので、パッケージ写真なども一応載せておきます。

Fiioのボックスは共通デザインが良いです

本体はビニールに包まっていました

付属品

最近のFiio商品はどれも黒と赤をベースにした統一デザインのパッケージです。ハイテクガジェット的な魅力はありますが、シンプルすぎて、なんとなく秋葉原の露天でLED懐中電灯とUSB扇風機とかと一緒に陳列してるみたいな怪しい雰囲気があります。

中身は上段に本体、その下に付属品類が入っています。

付属品は同軸S/PDIFデジタル出力用アダプタケーブル、マイクロUSBケーブル、スペアのスクリーン保護フィルム(本体にすでに一枚貼ってあります)、そして、Fiioお約束の本体用ドレスアップシールです。

このドレスアップシール、確実にネタで入れているのだと思いますが、それにしてもヒドいです。「カーボン調」はまだわかるとして、「星条旗」と「ウッド調」は使っている人は見たことがありません。盗まれる確率が下がるという意味での盗難防止アイテムかもしれません。

最近付属されるようになったクリアハードケース

ちなみに本体ですが、X5-II発売当時は柔らかいシリコン製ケースが同梱されていたのですが、最近になってクリアのハードケースに変更されました。パチっとはめて本体の背面と側面を保護するタイプです。こちらのほうがふにゃふにゃのシリコンケースより好きです。

これまでのシリコンケースを廃止したのは、単純に、「とても臭い」というクレームが多かったからだそうです。出荷前に香水をかけるなど色々努力があったみたいですが、結局ダメだったらしく、シリコンケースは却下になったらしいです。

いまさらX5-IIを買った理由

発売からもう一年になろうとしているFiio X5-IIをいまさら購入したのも、若干こじつけ的なところがあります。音を気に入っているため、なんとなく「買う理由を探していた」と言っても良いかもしれません。

長年愛用しているLehmann Audioヘッドホンアンプ

私はいつも職場のデスクで片手間に音楽を聴く際に、パソコンのJRiverソフトからUSB DACを通して、Lehmann AudioのBlack Cube Linearというアナログヘッドホンアンプに接続しています。職場でBGMとして使うにはちょっと贅沢なセットアップかも知れませんが、このLehmannヘッドホンアンプは「高出力・高音質・高信頼性」を地で行くような優秀アンプで、購入して10年が経ち自宅システムではお役御免になったものの、なかなか手放せなく(中古で売っても二束三文なので)、職場で悠々と第二の人生を送っています。

ちなみに、このLehmannは10年間ほぼ24時間点けっぱなしにしており、そろそろハンダ割れや電解コンデンサの容量抜けが心配になってきたため、最近になって基板を手直ししてリフレッシュしました(ついでにLehmann SE相当に中身をアップグレードしました)。部品の修理交換が容易なため、まだまだ10年、20年と活躍することでしょう。

Resonessence Herus

このLehmannアンプと合わせて、かれこれ3年間ずっと使っていたUSB DACがResonessence Herusでした。非常にシンプルなUSBバスパワーのDACで、コンパクトボディなのにフルサイズのBタイプUSB端子と6.35mmステレオ出力で、ヘッドホンアンプとしても活用できる優秀なガジェットです。

カナダのResonessenceは、D/Aチップで有名なESS社と一心同体のようなメーカーなので、このHerusもESS ES9010を搭載、まだ当時ESSのDACが世間に知れ渡っていない駆け出しの時代に、その高性能ぶりを披露したモデルです。

このHerusですが、普段は6.35mm→RCAステレオケーブルでライン出力DACとして使っており(Herusの内蔵ボリュームを最大にすると音割れする可能性があるので、87%に落として使っていました)、Lehmannアンプとのコンビネーションは、決して裏切らない信頼性と安定感で、3年間そこそこ不満もなく愛用していました。

そんなHerusが先日ついに故障してしまい、USBケーブルを接続した途端にヘッドホン出力から膨大なノイズが「ビーーーー!」と鳴る不具合が起こるようになりました。Herusの中を開けてみたところ、DACチップは無事だったものの、原因はアナログアンプICの発振だったようで、わざわざ極小基板を手直しで修理するのも面倒ですし、そろそろ引退させようと決断しました。

そこで、新たにUSB DACを買おうと考えたのですが、さすがに職場の息抜き用途にあまり高価なものを買うのも勿体無いです。目安として:
  • 予算5万円くらいで、
  • 電源不要のUSBバスパワーで、
  • 高音質の固定ライン出力を備えており、
  • できればDSDネイティブに対応していれば良いな、
それくらいの手軽な条件で探していました。

とくに、ヘッドホンアンプではなく、2V 100Ωくらいの高インピーダンスな正真正銘「ライン出力」を備えていることが理想です。たとえばChord Mojoでは値段が高価すぎますし、バスパワーでも無いですし、純粋なライン出力じゃないですし、上記の条件にあまり当てはまりません。

この前紹介したiFi micro iDAC2でも良いのですが、自宅と同じのをもう一台買うのも面白くないです。(レビュー → http://sandalaudio.blogspot.com/2016/04/ifi-audio-micro-idac2.html

ResonessenceからはHerusの後継機Herus+が登場しているので、またそれを買うことも考えたのですが、マイナーチェンジのみでサウンドは聴き慣れているので、もうちょっと別のメーカーの個性が詰まっているDACが欲しいと思いました。

用途としてはこのConcero HDがベストなんですけど、高いです・・・

あと、Resonessence でHerusの上のクラス「Concero HD」というモデルは、用途はピッタリなのですが、10万円なのでちょっと高価すぎます。

国産メーカーでは、DENONのDA-300USBとか良さそうですが、あれはACアダプター必須でバスパワーじゃないですね。あとJVC SU-AX7も好きですが、ライン出力無しで、DSD非対応です。

X5-IIをUSB DACとして使います

そんなこんなで、色々と候補を絞っていく内に、「そういえば、DAPもUSB DACとして使えるよな」なんてふと気が付きました。そして、「そういえばFiio X5-IIって前から欲しかったんだよな」、「そういえばFiioって、DAPとしては珍しく、高インピーダンスのライン出力を備えているよな」、なんて、考えれば考えるほど、X5-IIが魅力的な低価格DAC候補になっていきました。

とくに、費用対効果というか、X5-IIの中身はかなり気合が入っています。

以前Fiioではなく別のメーカーのDAP開発者に聞いた話ですが、DAPというのはUSB DACと比べて販売する台数が多いため、大量生産の恩恵で、下手なガレージメーカーのポタアンやDACと比べて、同じ値段でもかなり上質な回路が搭載できるということです。

実際、このFiio X5-IIと同じクラスの回路を備えている5万円以下のUSB DACはあまり思いあたりません。

そして、タイミング良く、Fiioが最新ベータテストファームウェアにて「DoP DSD出力機能」を追加しました。これはもう決定的に、買うしかないです。いわゆる自己催眠ですね。

S/PDIFでDSD

Fiioにかぎらず、どのメーカーのDAPでも、大抵S/PDIFデジタル出力を備えています。ソフトとかドライバとかを気にせずに手軽にデジタル通信ができるのは重宝しますね。最近はジッタ低減回路が進歩したおかげで、USBに対して音質デメリットも少ないです。

Fiioの場合は3.5mmコネクタによるアナログライン出力端子と兼用の「同軸S/PDIFデジタル出力」です。Astell & Kernなんかは3.5mm端子の「光S/PDIFデジタル出力」です。メーカーごとに、同軸・光のどちらか異なるのみです。

光と同軸、優劣を決めるのは難しいのですが、基本的にどちらも44.1kHz 16bitの「CDプレイヤー」に搭載することを想定して80年代に作られた規格なので、ハイレゾPCM対応となると、ギリギリきわどいものがあります。

とくに、光デジタルは、当初のTOSLINK規格が96kHzを上限としていたため、一昔前の光出力端子や光ケーブルなどでは、96kHz以上ではプチプチと音飛びが酷いものが多いです。同軸ケーブルも同様に、ちゃんと高速デジタル伝送のために設計されたケーブルが必須なので、アナログケーブルと同じ思い込みで銀コートPCOCCとか高級ツイストケーブルを使っていると、信号反射でバチバチノイズが発生するなんて事もよくあります。

44.1kHzでは大丈夫でも、ハイレゾPCMの転送レートではデジタルケーブルの品質はアナログケーブル以上に大事になってきます。現状、たとえ384kHzなどの超ハイレゾに対応しているDAPでも、S/PDIFデジタル出力は業界全体で光・同軸ともに192kHzを上限としているのが一般的です。

S/PDIFはそもそも44.1kHz〜192kHzなどPCMデータを送受信するための規格なので、DSDを直接送ることはこれまで不可能でした。2000年頃SACDの時代にも、ソニーやパイオニアのオーディオシステムなどでDSDを送受信するために、S/PDIFではなくiLink (IEEE1394 Firewire)を使っていたくらいです。

しかし、最近になってDSDをPCMデータの中に埋め込んで「偽装して」送受信する「DoP(DSD over PCM)」という手法が使われるようになってきました。誰が考えたのか知りませんが、頭がいいですね。

Windowsの場合、ASIO形式など、メーカーごとに独自のドライバを開発しないといけないため、そのつどメーカーごとにDSD対応を盛り込むことができるのですが、Macの場合アップル標準のドライバがハイレゾPCMのネイティブ出力に対応しているため、メーカーごとに専用ドライバを開発するのもバカらしい。じゃあDSDはどうするか?ということで、DoPはMacで重宝されています。

パソコンからUSB DACでのDSDリスニングの際に一般的になってきたDoPですが、S/PDIF(同軸や光デジタル)で同じようにDoPを送受信することはあまり流行っていません。DoPで送れるS/PDIFソースも、それを受けとってちゃんと解読できるDACも数が少ないです。

ちょっと前までは、たとえばResonessence Concero HDが同軸S/PDIFでDoP DSDを出せるということで話題になっていました。

最近では、Chord MojoなどがS/PDIFでDoP DSDを受け取れます。

つまり、X5-IIからDSD DoPを送り出せば、Mojoはそれを正しく受け取ってDSDをネイティブ再生できるわけで、強力なパートナーシップが生まれます。

Fiio 2nd Generationの同軸S/PDIF

Fiioの同軸デジタル出力は、意外と気がつかない変なケーブルを使っています。

FiioのX3やX5など初代ラインナップは3.5mmモノラル(TS)コネクタを使っており、先端(T)がデータ、スリーブ(S)がグラウンド、というシンプルな配線でした。

Fiio X3-II、X5-II、X7といった第二世代モデルでは、どれも4極3.5mm(TRRS)コネクタを使います。TRRSのうち、先端のTRが未使用で、根本のRがデータ、Sがグラウンドという配線になります。ソフトのスイッチを切り替えると、先端のTRがアナログライン出力になるわけです。

Fiio L21ケーブル

X5-II付属のS/PDIFケーブル

X5-IIに付属しているケーブルもそうですし、Fiioの販売している「L21」というデジタルケーブルも「4極TRRS 3.5mm端子」です。

Chord MojoとDSD接続

上記のL21ケーブルは反対側がRCA端子なので、Chord Hugoとか、ごく一般的なDACに接続する際に便利です。

Mojoの同軸デジタル入力はモノラル3.5mm端子なので、このL21ケーブルはそのままでは使えません。もちろん変換アダプタを通しても良いのですが、高速データを送受信するのにアダプタは気持ちが悪いので、今回は6GHzのマイクロ波用高速同軸ケーブルを使って自作しました。変なボッタクリ8N OFCケーブルとかを使うよりも、地デジ送信とかで実証されている高速同軸がデジタルには一番良いです。末端処理はどうせ3.5mmジャックなので、75Ω特性とかは気にしていません。そもそもX5やMojoの端末処理も75Ωかどうかは怪しいので、ケーブルがしっかりしているのが一番肝心です。

自作する場合は、4極コネクタなので注意

システム設定でコアキシャル、DOPを選択

無事、Mojoのライトが白く光り、DSD受信を示しています

X5-IIのファームウェアを現時点で最新のVer. 1.27 betaにアップデートした後、システム設定画面で「マルチファンクショナル出力 = コアキシャル出力」「SPDIF Output = DOP」にしてみます。

この状態で、X5-IIのメモリーカードからDSD64のファイルを再生したみたところ、無事Chord MojoがDSDネイティブで受信しました。ちゃんと音楽も音飛びせず順調に再生できています。

ちなみに、システム設定画面で「SPDIF Output = D2P」に変更すると、DSDをPCMに変換したものがS/PDIFで出力されるので、この状態でMojoにつなげると、DSDファイルはPCM 88.2kHzで再生されます。これはAK240とかと同じ方式ですね。

パソコンからUSB DACモードでは同軸デジタルのDoPは無理っぽかったです

それと、現時点では、X5-IIをUSB DACとして使用する場合、ヘッドホンとアナログライン出力の場合はDSDのネイティブ再生に対応していますが、同軸デジタル出力を選ぶと172.4kHzのPCMに内部で変換されるようです。パソコンからX5-IIまではDoPで送られています。

つまりパソコンからの同軸S/PDIF DoP送り出しデバイスとしては使えないようです。

DSDフォーマット対応

ところで、DSD64がS/PDIF出力できるとなると、DSD128とかDSD256はどうなんだ?と気になります。

X5-IIのスペック表を見ると、「Native DSD128」って書いてありますしね。

たしかに、本体メモリーカードからDSD128を再生することは可能なのですが、残念ながらS/PDIFでDoP出力できるのはDSD64が上限で、それ以上のファイルを再生するとエラーが出ます。また、USB DACモードで使用する際も、DSD64が上限です。

S/PDIF DoP出力では、DSD128はエラーで止まってしまいます

これは、X5-IIがPCMフォーマットに192kHz 24bitまでしか対応していないことが原因です。

DoPというのはDSDデータをPCMデータの中に埋め込んで転送するため、PCMデータの最高速度によって、埋め込めるDoPの最大レートが決定されます。

つまり、
  • PCM 192 kHz [DSD64]
  • PCM 384 kHz [DSD128]
  • PCM 768 kHz [DSD256]
といったレートのPCMに対応する必要があります。

S/PDIF、USB DACモードともにPCM 192kHzまでにしか対応していないので、どちらもDoPで送れるDSDはDSD64まで、というわけです。

色々まとめると、下記の表のような感じです。

あと実用上で注意が必要なのは、本体メモリーカードからDSD128を再生したい場合には、まずマルチファンクショナル出力を「ライン出力」にして(つまりS/PDIF機能を停止して)、さらにヘッドホンかライン出力端子にアナログの3.5mmステレオケーブルを接続した状態でないと、エラーで止まってしまいました。

色々と複雑な条件があるようです

ともかく、ファームウェア更新にてS/PDIF DoPモードでDSD64を送り出せるというのはとても嬉しいです。今後また新たなファームウェアやドライバにて、さらなる機能追加があるかもしれません。「作って売って終わり」じゃなくて、こういう長期的な開発意欲が大事ですね。

X5-IIの魅力

DSD再生は嬉しいボーナスですが、日々最新DAPやUSB DACがデビューする中で、この期に及んであえてX5-IIを購入したのは、その音質と設計コンセプトに共感を得たからにほかありません。

とくに、中身の仕上がりは、この価格帯ではかなりお買い得感がありますし、サウンドもそれに見合うだけの実力があります。私が酷評しているFiioの稚拙なユーザーインターフェイスも、アンドロイド+大画面タッチスクリーンと比べるとかなり低コストだと思うので、その分の投資をオーディオ回路にまわしていると考えれば、あまり悪口は言えません。

昔懐かしいテキスト表示

ホイールをグリグリと回して、SDカード二枚分のアルバムリストから小さな文字を追って選曲するのは、手間がかかり直感的ではないですが、多分今後X5の後継モデルが出たら、タッチスクリーンになるんでしょうね。

液晶の発色はとても自然で良好です

X5-IIには良い部分もいくつかあり、たとえばカラー液晶の発色がとても良く、AK240と比べると格段に色合いが良いこと(人肌の質感を比べると一目瞭然です)。また、グリグリと回すスクロールホイールが、初代X5と比べてしっかりとしており長寿命になっていることです。

初代X5のホイールは購入後3ヶ月くらいでガクガクになってしまい、ワンクリック回すと2列飛んだりとか、イライラさせられたのですが、X5-IIは店頭試聴用のデモ機など、かなりボコボコに使い倒されているモデルを触ってみても、快適に使えました。

あと、初代X5とくらべて省エネ化が進んでおり、初代では電源入れっぱなしで放置すると一晩でバッテリーが空になってしまうため、毎回シャットダウンする必要があったのですが、X5-IIではそのまま電源を入れたまま放置しておいても「スリープ状態」になってバッテリーが数日間持ちます。そのため、使いたい時に電源ボタンをピッと押せばそのまま起動するのが手軽で便利です。これは結構大きな変更点です。

裏蓋を開けた状態

X5-IIの中を開けてみました。AK240などと同様に、本体下部のネジを二つ外してから、裏蓋を吸盤などでパコッと開けるだけです。

ちなみに本体下部のネジは一見六角トルクスネジっぽいですが、実はパソコンメーカーが使っている五角形星ネジなので注意が必要です。サイズは「星形2」です。

DACチップ周辺

中を開けてみると、まずCPU回路がオーディオに悪影響を及ばさないよう、しっかり電磁シールドされているのが嬉しいです。DACはバーブラウンの最上級チップ「PCM1792」です。

さらにその下に、X5-IIのセールスポイントである最新の「SITime MEMSクロック」を搭載しています。水晶体を使わず、極小の機械式「振り子」を使ってクロックを刻む革新的なチップで、FiioがX5-IIにていち早く採用しました。

ところで、Fiioの上位DAP「X7」ではバーブラウンPCM1792ではなくESS ES9018が搭載されていますが、個人的にはこのバーブラウンのほうが好みのサウンドです。PCM1792は「電流出力」DACチップなので、電流を電圧に変換する「I/Vコンバータ」回路が別途必要になります。ここがオーディオメーカーの腕の見せどころなので、部品点数は多くなるけれど高音質を目指したいメーカーは、あえてPCM1792のような「電流出力DAC」を選ぶことが多いです。

X5-IIのオーディオ・アンプ

Fiioの公式サイトを見ると、DAC後の回路についてのダイヤグラムがあります。OPA1652というオペアンプでI/V変換、OPA1612でLPFと電圧増幅を行い、最後にヘッドホンアンプ用のBUF634という電流バッファチップが搭載されています。Fiio X7のAM2アンプモジュールと同じアンプですね。

よくガレージメーカーのヘッドホンアンプなどで、「オペアンプ交換可能」なんていうのがありますが、上記ダイヤグラムのように、回路の中のどの役割を担っているオペアンプなのかで、選定すべき特性が違ってきます。(電流ノイズ、オフセット、ゲイン安定性、など)。Fiioはアナログアンプ開発で相当なキャリアを積んでいるので、長年の実績と、掲示板などでの積極的なやりとりによるユーザーフィードバックを元に、この部分の回路設計に間違いが無いのがメーカーとしての強みです。

ヘッドホンアンプのBUF634U

ケースを開けてみて、おもわず笑ってしまったのは、アンプI/Vのカップリングに巨大なWIMAのフィルムコンデンサ(真っ赤なやつ)が搭載されています。普段、据え置き型のアンプなどに使われる低抵抗コンデンサです。実際この容量のコンデンサであれば、それの周辺にあるようなコンパクトな表面実装チップ(隣の黄色いチップ)でも理論上は十分なので、今回あえて大きなWIMAフィルムコンを搭載したのは純粋に音質メリットからなのでしょう。こういう謎のこだわりが面白いですね。

ちなみに、その上にバーブラウンのPGA2311という「デジタル制御アナログボリュームIC」チップも搭載されています。一般的にデジタルデータのまま音量調整をすると音質が劣化すると言われていますので、このようにあえてアナログボリュームをデジタルステップで制御できるように仕上げているのも良い配慮です。

一方Fiio X7では、このようなアナログボリュームではなく、DACチップ内のデジタルボリューム機能を使用していることがマニアに酷評されました。実際どちらが高音質になるかということよりも、高音質のための努力を惜しまず、どの部分に価格相応のコストをかけているのか?という「設計理念」みたいなものが突き詰められたX5-IIとくらべて、X7ではアンドロイドOSとスマホ的な機能性にかけた割合が強すぎる、というのがX7に対する不満のようです。

なにはともあれ、X5-IIというのは基板の9割をDACやアナログ回路に割いており、しかもDACチップやアンプ回路など、据え置き型DACに全く引けをとらない構成なのが魅力的です。「ポータブルだから仕方がない」という言い訳や妥協をせず、ひとつのポータブルパッケージとして合理的に成立しているのが素晴らしいと思います。

出力について

いつもどおり、1kHzサイン波のフルスケール信号を再生して、ヘッドホンアンプの出力を測ってみました。

比較のため、前回紹介したFiio X7のアンプモジュール(AM1とAM2)と、AK240を同グラフに乗せてあります。

ヘッドホン出力が頭打ち・音割れしない最大出力電圧

X5-IIがFiio X7のAM2モジュールとほぼ同じ出力曲線を描いているのは、どちらも「バーブラウンBUF634」という電流バッファアンプICを採用しているので、不思議ではありません。X7-AM2のほうが約1Vほど最大電圧が高いですので、より大きな音量が出せます。

それらと比べてAK240がかなり貧弱なのが面白いですね。特に低インピーダンス側のパワーダウンっぷりは悲惨です。どうりでIEMなどで音割れしたりするわけです。

とはいったものの、AK240が低音質というわけではないです。AKは多くの人が納得する高音質だからこそ、高価なのにあれほどのベストセラーになっているわけで、つまりアンプの出力と音質は別の問題だということです。

ただ単純に、汎用性というか、様々なイヤホン・ヘッドホンを使う場面でドライブ力に困らないという意味では、AK240よりもX5-IIのほうが確実に高性能です。

X5-IIのハイゲイン、ローゲインモードとライン出力

X5-IIにはハイゲイン・ローゲインモード切り替えがあるので、それぞれを比較してみたところ、ローゲインでは出力電圧が約半分に抑えられます。ちなみにライン出力はそれ専用の100Ω高インピーダンス出力なのが嬉しいです。無負荷時の最大ピーク電圧は4.48Vなので、RMSだと1.56Vrmsですね。昔ながらのCDプレイヤーみたいな若干低めの電圧ですが、高すぎるよりはマシです。

音質について

冒頭でも触れたように、今回あえてX5-IIを購入した一番の理由は、その素晴らしいサウンドが脳裏に焼き付いていたからです。ヘッドホンアンプ・ライン出力DACのどちらに活用しても満足できるサウンドだと思いました。そうでなければ、こんな中途半端な操作性のDAPを今更買ったりしません。

私にとってX5-IIのサウンドが特別なのは、これまで試聴してきたDAPの中で一番「普通のCDプレイヤー」に近い音作りだと思うからです。「普通の」なんてアバウトな表現ですが、このX5-II以外のDAPではそう感じることが少ないです。たとえばエソテリックとかレヴィンソンとかの、そこそこ高価なCDプレイヤーになってくると、メーカーごとの過剰なクセや個性が薄れていって、万能かつ無駄の少ない、ソリッドな共通サウンドに向かっていく感じがあります。X5-IIはポータブルDAPの中でも特出してそういう雰囲気が出ています。方向性という意味であって、X5-IIがそのレベルにたどり着いているというわけではないです。

また、ヘッドホンアンプとしても、普段慣れ親しんでいる「普通のヘッドホンアンプ」に近いサウンドだと思います。普通というのは、たとえばLehmannやViolectricなどの、「オペアンプ受け、バイポーラトランジスタ出し」という教科書的な模範アンプのサウンドです。

アンプの作り方は千差万別で、どれが最善という答えは無いのですが、それでもやはり珍妙なサウンドとオーソドックスなものは違いがあります。

X5-IIのサウンドは、要約すると、メリハリが強く、無駄に膨らまず、芯が太く、シャリシャリせず、若干硬質で、スピード感と音圧が充実している、みたいな感じです。

楽器の音と、それ以外の背景音の振り分けがハッキリとしており、今ソロをしているメイン楽器を前面に引き出す、といったサウンドです。

優雅な三次元的な広がりや雰囲気よりも、ヴォーカルやギターなどが優先されてグッと引き立つので、音量を下げてもエネルギーが薄れず、エキサイティングに盛り上がります。その反面、あまり大音量で聴くと、キレの強さのせいで聴き疲れしやすいです。

X5-IIが初代X5と比べて優れているのは、まず電源回路の向上により最大音量付近での音割れが低減されたことと、DSDファイルのネイティブ再生に対応したことです。

それ以外では、クロックの変更と、I/V変換オペアンプ変更、そしてヘッドホン出力バッファICが「LMH6643」から「BUF634」に変わったくらいです。つまり、全体的なコンセプトは変わらず、搭載しているICパーツが更新されたわけです。

X5-II発売当時に初代X5と比較試聴して思ったのは、「普段使いではそこまで音色は変わっていない」という印象でした。同じ楽曲とヘッドホンを使ってA/B比較しても、なかなか見分けがつかないくらい似ています。

細部を聴き比べてみると、X5-IIのほうがメリハリが増しており、より自己主張の強いサウンドです。ネットのレビューなどを読むと、ちょっと音が硬すぎる、なんて意見が多いようです。実際、かなり硬質な部類のサウンドだと思います。これは新採用したSITimeクロックのせいだなんて確信している人も多いですが、原因はなんであれ、結果には同意します。音圧が強い曲(アメリカのR&Bとか)を聴くにはちょっと硬くて疲れるかと思います。

「硬い」というのはシャリシャリして刺さるという意味ではなく、たとえばベースラインやドラムなどがマイルドに伸びるのではなく、ドスンドスン、ガシャンガシャンと歯切れが良く押しが強いため、それに耳が圧倒されてしまうということです。

アンプで余計な響きの広がりを持たせず、暗く無音なバックグラウンドからバシバシと楽器の音色が右往左往に飛び出してくる、ハイスピードでスリリングな音楽を体感できるストレートな音作りは、つくづく一昔前のKRELLとかエソテリック、レビンソン390みたいなCDプレイヤー路線を彷彿させます。

たとえば、X5-IIとAstell & Kern AK240を交互に聴き比べてみると、なんだかんだ言って結局AK240というのは「まろやかな」サウンドなんだな、とつくづく実感させてくれます。ヘッドホンアンプ・ライン出力ともにそう感じます。AK240の中高域はキラキラしすぎず、主要楽器は前面ではなく、遠く奥へ広がり、低音の膨らみ加減はまさにリビングルームのステレオスピーカーを彷彿させる、丸くてソフトな空気を演出します。

アナログノイズが多い1950年代のジャズから、コンプバリバリで耳が痛くなりそうなポピュラー音楽まで、AK240で聴けば、決して聴き疲れせずにソフトで穏やかな暖かさを演出してくれます。つまりX5-IIとの両極端みたいな感じです。上位モデルのAK380が方向転換してより繊細でクリアなサウンドに向かったのも納得できるような気がします。どのメーカーも決定的な音作りを模索中なのでしょう。

X5-IIが搭載しているバーブラウンPCM1792を同じく採用しているDAPというと、Cowon Plenue 1とPlenue Sがあります。

DACチップそのものがシステム全体のサウンドを決めるわけではないですが、なんとなくX5-IIを突きつめると、最終的に行き着くところは、私が大好きな(でも高くて買えない)Plenue Sなのかな、なんて考えも思い浮かびます。少なくともX5-IIはその過程にあるサウンドだと思います。

具体的には、Plenue SというDAPも、X5-IIのようにメインとなる楽器やボーカルを引き立たせ、雰囲気よりも音色そのものを魅せるようなスタイルだと思います。

若干押しが強くハードすぎるX5-IIとくらべて、Plenue Sはよりリラックスして、より楽しく、カジュアルっぽさとギリギリの境界線を上手に料理している、「ハイエンドなのに楽しい」というオーディオマニア的には矛盾した魅力を持っています。

DACやアナログ回路のパーツや設計など、X5-IIはPlenue Sに決して劣らない誠実なDAPなのですが、この「リラックスして楽しく」というサウンドにおいてPlenue Sと大きな開きがあります。今後X5-IIの後継機で、Fiioらしい低価格をキープしたままPlenue Sに近づく高レベルのサウンドを実現してくれればとても嬉しいのですが、まだこのX5-IIにはそこまでの技量は備わっていないようです。

まとめ

買うべきかどうか長らく悩んでいたFiio X5-IIですが、実際手に入れてみると、やはり価格の常識を超えた良い音だなと再認識しました。

硬質で歯切れがよいサウンドが魅力的です。高音から低音までスピード感にあふれており、歌手やソロ楽器をクリアに生々しく披露するスタイルです。空間表現が引き締まっており、無駄にふわっと広がりを見せない立体像が際立っています。

繊細でシャリシャリ刺さるモニター調とか、リッチで暖かい真空管系とか、そういったタイプのDAPとは一線を画する、素直でパワフルなサウンドです。この手のポータブル機では意外と珍しいスタイルだと思います。

私はUSB DAC・ライン出力目当てで買ったのですが、単独DAPとしても同じサウンド傾向なので、たとえば今使っているDAP・ヘッドホン環境がちょっと貧弱でメリハリが乏しいとか、フワフワしていて眠いとか、そういった不満を抱えているなら、X5-IIを試してみると面白い発見があるかもしれません。

さすがに昨今のアンドロイドOS・タッチスクリーン系DAPとくらべて、大量の音楽ファイルを詰め込んで日々常用するには使いづらいですが、システムOSがシンプルな分だけ、価格に不釣り合いなくらい充実したDAC・アンプ回路を搭載しています。

個人的には、今後FiioがX5シリーズの基礎設計をさらに突き進めて、音質と操作性を向上させたDAPが登場することを望んでいます。それがX7なのだと期待していたのですが、実際X7はサウンドの方向性がX5-IIと大きく異ります。

結局私が思うX5サウンドの理想的な延長線上にあるのは、メーカーの枠を超えて、Cowon Plenue Sだと思っています。(Plenue 1も似ていますが、パワー不足です)。私の財布では24万円のPlenue Sは手が出せませんが、Fiioであれば今後これに匹敵するサウンドを10万円以下で実現できる技量があると信じています。

将来的にFiioがタッチスクリーン操作を導入するとして、X3やX5など五万円以下クラスの価格帯では、無線やBluetoothなどが必須のAndroid OS搭載は厳しいと思います(前例がありません)。その場合、iBassoやCowonなど、Androidに頼らず音楽再生に特化した独自タッチスクリーンOSを搭載したDAPメーカーがある一方で、Fiioはまだそのへんのキャリアが未熟なため、今後どのような次世代の低価格DAPを投入してくるのか興味がわきます。それが実現するまで、当面のあいだはX5-IIで楽しむことにします。