2016年3月29日火曜日

JVC WOOD 01 HA-SW01 ヘッドホンのレビュー

JVCケンウッドの「WOOD」シリーズヘッドホン「WOOD 01 (HA-SW01)」を購入しました。

2015年12月に発売されたヘッドホンで、その名の通り「ウッド素材」をテーマとしたモデルです。木製ハウジングだけではなく、ヘッドホンのドライバ振動板そのものが木材で出来ているという、とてもユニークなコンセプトが注目を集めています。

JVC WOOD 01 (HA-SW01) - ウッド振動板が見えます

一見コンパクトなミドルクラスヘッドホンのようなデザインですが、定価が約76,000円、私が購入した時点での店頭価格も6~7万円前後と、見かけによらず結構な高級ヘッドホンです。

JVCは同価格帯でさらに大型のヘッドホンHP-DX1000などを販売していますが、あちらは2005年のモデルでもうずいぶん古くなっているため、最新鋭モデルとなると、今回紹介するWOOD 01が実質的なJVC渾身のフラッグシップ機にあたるのかもしれません。



JVCのWOODシリーズ

JVCにとって「ウッド振動板」というのは、長年にわたるシンボルのような存在です。

我々ヘッドホンマニアには、2007年に登場した「HP-FX500」が世界初のウッドドーム振動板を搭載したイヤホンとして記憶に新しいです。

大好評シリーズの原点HP-FX500

このHP-FX500は、後にHA-FX700、650、750、850、1100といった後継モデルを経て着々と進化を遂げています。

天然素材であるウッドを使っているということで、経年劣化や大量生産における品質管理の問題がありそうだと心配な人もいるみたいです。ところが、このウッドドーム・イヤホンシリーズは、デビューからもうすぐ10年になる現在でも多くのユーザーに愛され、高音質ダイナミック型イヤホンの代名詞と呼ばれるくらいの売れ筋モデルになっています。

私自身もHA-FX1100を所有しており、その完成度の高さをとても気に入っています。

ウッド振動板のイヤホンHA-FX1100も愛用しています

JVCのウッドドーム技術は、これらイヤホンから始まったわけではなく、2003年にはすでにミニコンポ用スピーカーにウッドコーン振動板を搭載しています。

あえて巨大なハイエンドシステムではなく、「大人の高級ミニコンポ」というフォーマットで勝負してきたのはJVCらしいですね。

2003年のEX-A1

当時JVC(ビクター)は85mmと100mmのウッドコーンドライバを自主開発して、現在まで続くロングセラーとしてシリーズ化されています。

ウッドシリーズデビュー当時の85mmドライバ搭載ミニコンポEX-A1は今見ても色褪せない美しいデザインですし、現行モデルのEX-N、EX-HR、EX-Sシリーズも同じポリシーを継承しています。とくに最近のウッドコーンスピーカーの内部写真を見ると、「ここまでやるか」というくらいウッド盛りだくさんな設計なのが逆に笑ってしまいます。

現行モデルのWOODシリーズステレオも魅力的です

公式サイトより(http://www3.jvckenwood.com/audio_w/woodcone/

ハウジングに関しては、もちろん世間一般にあるスピーカーハウジングの大半は合板や繊維板などの木材が使われているので、JVCだけがユニークというわけではないのですが、しかしJVCほど無垢の木材そのものの特性にこだわっているメーカーは稀です。

JVCのスピーカー設計でもう一つユニークな点は、振動板やハウジングだけではなく、それ以外の周辺パーツにも異常なまでのこだわりを持っており、本来進むべき「低コスト化」とは真逆の方向で、たとえば吸音ブロックや、重い金属製プラグなど、やりすぎなくらいに多種多様な材料選びを追求しています。

一見素朴で地味なデザインでありながら、「素材の特性を活かす」というイメージがあるブランドです。コンパクトな筐体に85mm小型ドライバということで、やはり完璧にセッティングを追い込んだ大型オーディオシステムには空間表現やワイドレンジさは敵わないのは明白です。しかし現実問題として、ミニコンポが想定しているシチュエーションというのは、ガチガチな室内音響チューニングや、ベストな設置場所を追い込めない、ベッドルームなどの妥協した環境を前提としているため、そのようなシナリオでも満足できる音色の響きを味わえるということが魅力的だと思います。そして、今回のWOODヘッドホンにおいても同じようなコンセプトの方向性を感じます。

2003年のウッドコーンスピーカー、2007年のウッドドームイヤホンと続いて、今回紹介するWOOD 01・WOOD 02の両モデルにて、ようやくウッドドーム搭載ヘッドホンが登場しました。

WOOD 01

WOODシリーズヘッドホンは、75,000円のWOOD 01と、54,000円のWOOD 02の二本立てでデビューしました。

両者の基本構成や、カタログスペックなどは同じなのですが、割高なWOOD 01はプレミアムモデルということで、WOOD 02では省略されている追加パーツが搭載されています。

公式サイトより(https://www3.jvckenwood.com/accessory/wood2015/

WOOD 01と02の違いについて、公式ウェブサイトを見ると、具体的には、WOOD 01ではドライバ周辺に「ウッドバッフル」「響棒」「制振ウッドプラグ」という三つの木製パーツが追加されていることと、配線に音響用の特製ハンダが使われているそうです。

これら追加部品の効能については意味不明な部分もありますが、実際01と02の両モデルを聴き比べてみるとそこそこサウンドの傾向が異なるので、やはりこういった小さな部品でも効いてくるんだなと関心しました。

私自身の印象では、WOOD 01と02の両者それぞれが独特の味付けで、高価なWOOD 01のほうが格別優れているとは思わなかったのですが、JVCが目指しているサウンドが色濃く現れているのがWOOD 01の方だと思ったので、そちらを選びました。逆に、WOOD 02のほうがもっとオールラウンドで使える印象です。

ところで、JVCというと、このWOODシリーズが登場するちょっと前に、SIGNAというヘッドホンも発売しました。これまたSIGNA 01と02という二つのグレードで展開され、発売当時の価格がそれぞれ48,000円と32,000円で、現在は2-3万円台で販売しています。今回のWOODシリーズは一見これらSIGNAヘッドホンにウッドパーツを搭載しただけのように思えたのですが、実際手にとって見ると、やはり価格相応にパーツのグレードや質感が違います。

公式サイトより(https://www3.jvckenwood.com/accessory/signa/

SIGNAは多少なりとも気になっているのですが、結局購入しませんでした。プラスチックフレーム、折りたたみ式ハウジング、オンイヤーパッド、1.2m着脱片出しケーブル、40mmポリエステル振動板、といった具合に、ヘッドホンマニアとしてはもう使い古された方程式です。

実際SIGNAを聴いてみると、しっかりとチューニングしてあり、そこそこ悪くないので、このクラスのヘッドホンを現在求めている人にはオススメできます。逆に言うとワンポイントで秀でた魅力が薄い感じでした。スタイル・サウンドともに無難なので特定の購入層に一定数は売れるのでしょうけれど、たとえば同価格帯でベストセラーなソニーMDR-1Aや、デザインセンスが好評なゼンハイザーMOMENTUMとかが買えることを考えると、やはり激戦区だなと思います。

公式サイトより(http://www.kenwood.com/jp/products/audio/headphone/

SIGNAといえば、JVCケンウッドのKENWOODブランドでの姉妹モデル「KH-KZ3000」「KH-KZ1000」の存在も注目度が高いです。直販限定ということで、なかなか店頭やメディア露出が少ないモデルなのですが、SIGNAとはチューニングやデザインが変更されており、面白い仕上がりです。

ということで、SIGNA・KH-KZシリーズはケンウッドっぽい路線のヘッドホンで、その土台を元にビクターならではのウッドスピーカー技術をふんだんに盛り込んだのが、今回のWOODシリーズヘッドホンなのかもしれません。

パッケージ

高級機だけあって、パッケージも結構しっかりしています。落ち着いた白いスリップケースの中に、黒い厚紙の重箱が入っているタイプです。

化粧箱のデザインはシンプルでカッコいいです

中に厚紙の内箱が入ってます

この内箱は、高級感は悪くないのですが、なんというか、お中元でもらう菓子折りとか、地方特産の銘菓みたいな感じです。中高年路線というか、古臭い感じはします。お婆ちゃんが取っておいて裁縫セットとして再利用する、みたいなタイプの箱です。

CLASS Sというのも、「ベンツのSクラス」みたいで、ちょっと恰幅の良いイメージがありますね。

菓子箱の中にそのままヘッドホンが入っています

付属のソフトケース(というかただの布バッグ)

新品はハウジングが薄い布に包まれてました

中身はスエード調ファイバー繊維のソフトケースに入っており、さらに左右のハウジングがぶつからないように布にくるんでありました。

付属品はケーブル一本と説明書のみのシンプルな構成で、ちょっと味気ないです。

もっとアクセサリをたくさん入れろ、というわけではないのですが、せっかく高級菓子箱のデザイン路線にいくなら、たとえば技術紹介とか、開発者からのメッセージとか、そういう読み応えのあるパンフレットを入れてくれたらユーザーはもっと嬉しいと思います。よく銘菓を買うと入ってる「将軍が旅路にて食べて、あっぱれ、以来徳川家献上の品になった」みたいなエピソードが書いてあるアレです。

折りたたんだ状態で、左右ハウジングが衝突します

衝突箇所は塗装がハゲます

ところで、左右のハウジング衝突防止の布に包まれていたのはそれなりに理由があるみたいで、実は購入して一週間ほどそのまま付属ソフトケースに入れて持ち歩いていたら、案の定左右ハウジングの塗装がぶつかって、剥げてきました。私はこういうのはあまり気にしないのですが、気になる人は事前に衝突箇所をテープなどで養生しておくのが良いと思います。

デザイン

WOODヘッドホンのセールスポイントであるウッド仕上げのハウジングですが、表面に薄くクリアコートされています。なんというか、思っていたより地味ですね。

サラッとしたサテン仕上げのウッドパネル

このWOOD 01のハウジングは、クリアコートがテカテカではなく、サラサラしたサテン仕上げなので、ウッドの質感があまり目立たないシンプルなルックスです。

オーディオテクニカやDENONのように木目の濃淡を美しく引き立たせるといった感じではなく、JVC HP-DX1000のような家具調の仕上げでもありません。高級漆塗り仕立てとかよりも、こっちの方が落ち着いていて好きだという人もいるかもしれませんが、個人的にはもうちょっと派手でも良かったかなと思います。

ちなみに下位モデルのWOOD 02のほうがウッドの色合いが若干薄いですが、仕上げに大差は無いです。

たとえばオーディオテクニカATH ESWシリーズなんかは光沢が見た目のラグジュアリー感を与えていますし、GRADOのRS1とかは削りかすが残っていそうなワイルド民芸品スタイルです。JVC WOOD 01の場合、「最後の鏡面磨き仕上げの一つ手前の工程で作業を終えてしまった」、みたいな中途半端感があります。逆に言うと、テカテカコートと比べて、傷とかをあまり気にせずに、使っているうちに光沢や風合いが出てきそうな気もします。

JVCといえばロングセラーのHP-DX1000

最近ウッドハウジングのヘッドホンは色々増えてきましたね

ウッド振動板はJVCの独自技術ですが、ハウジングにウッドを採用しているヘッドホンはすでに市場にたくさんあります。その中でも、たとえばJVC HP-DX1000のように、木をまるごと削ったコップみたいなハウジングにドライバを直にボルトオンしているような構造もあれば、プラスチック製のハウジングに申し訳程度の薄い木製パネルを接着した、デザイン重視のスタイルもあります。また、Gradoのように、完全にウッド削り出しのモデル(RS1)から、さらにアルミハウジングを接着したハイブリッド構造(PS500とか)もあったり、やはりウッドというのは、木目の美しさはもとより、音響的にも極めて重要なパーツのようです。

WOOD 01の場合は、ハウジング外枠は樹脂ベースで、そこに音響用の分厚いウッドパネルを埋め込むような構造になっているみたいです。

とくに密閉型ヘッドホンの場合、低域の質感はハウジングの材料が重要な要素です。安いペコペコしたプラスチック製ハウジングのヘッドホンでは、リスニング中にハウジングに手を当ててみると、低音の振動が直に伝わってくることがわかります。この反響が、低音の歪みや、時間軸の滲みとして直接サウンドに影響を及ぼします。

同様に、ただ硬いだけの金属ハウジングでは反響しすぎますし、逆に、スポンジなどであまり振動を吸収しすぎても、響きが吸い取られるような、味気ないデッドなサウンドになってしまいます。そういった要素を上手に料理するにあたって、ウッドのような自然素材を活用するのは良いアイデアだと思います。

ハウジング周辺のフレームやヘッドバンド調整機構は、メタルを多用した重厚な手触りです。公称で重量が330gということで、ソニーMDR-1Aの225g、オーディオテクニカATH-MSR7の290gなどと比べても、かなり重いことがわかります。330gで密閉型というとベイヤーダイナミックのT70とかと一緒なので、それくらいの覚悟が必要です。

ヘッドバンドのスライダー部分が肉厚でカッコいいです

ヘッドバンドは、すごく地味です

個人的に一番気に入ったのは、ヘッドバンド調整部分がダイキャストのような太いパーツで作られていることです。通常はステンレス板が一般的なので、こういった無骨な形状は珍しくユニークだと思います。その反面、ヘッドバンドそのものは極端に地味です。もうちょっとどうにかならなかったのか、と言いたくなるくらい地味な、黒いレザー調素材の簡素なデザインです。クッションはフカフカしていて良好ですので、文句を言うべきでは無いですね。

ただ、最近ゼンハイザーMomentumを筆頭に、ヘッドバンドのレザーパッドの魅せ方というのがヘッドホンデザインにおいて一種の注目ポイントになっているので、ここはエンブレムとかステッチとか、もうひとひねりして欲しかった気がします。たとえば最近発売されたベイヤーダイナミックDT1770も、ヘッドバンドにベイヤーらしからぬ垢抜けた色気を出していて驚きました。

ケーブル

コンパクトでフラットに折りたためるデザインということで、なにかとベーシックモデルのように見られがちなWOOD 01ですが、似たようなスタイルのソニーMDR-1Aなどと大きく異る点は、ケーブルが左右両出しということです。ちなみに、JVCラインナップでも、SIGNAは片出しでWOODは両出しです。

ヘッドホン側のコネクタが3.5mmの着脱式なので、ケーブル交換が可能です。

布巻きで扱いやすいケーブルです

WOOD 01は3.5mm両出しということで、ソニーMDR-Z7などと同類で、交換ケーブルは既成品・自作品ともに比較的手に入りやすい部類だと思います。しかし、WOOD 01のコネクタは取っ手部分が若干細いため、実際試してみないと奥まで入りきらない可能性があります。たとえばMDR-Z7用ケーブルは装着できませんでした。

赤色の部分がアンチバイブレーション構造です

この特殊な取っ手形状は、JVCが「アンチバイブレーションジャック」と呼んでいるもので、要するにソケットとスリーブの両方に軟性プラスチックのリングが設けており、これがギュッと密着することでケーブルがグラグラしない、という、わかりやすく納得できる構造です。さらに、このリング部分が左右で青赤に色分けされているのも嬉しいです。

たとえばソニーMDR-Z7の場合は、スリーブにネジがあって、それを締めることでグラグラを防止しています。端子のグラグラは接点に負荷をかけますし、接点不良や破損の危険も高まるため、こういったしっかりとした接続は重要だと思います。

付属の1.2メートルケーブル

なぜ私があえて交換ケーブルについて言及しているのかというと、付属品として1.2mという短いケーブルしか同梱されていないからです。また、アンプ側のコネクタも3.5mmのみで、6.35mmネジ込みアダプタなどもありません。

そういえば、JVCの3.5mm→6.35mm変換アダプタ「AP-301HF」は高品質で定評があるので、これを付属してくれれば嬉しかったのですが。

これ、良いので、こういう機会に付属して欲しかったです・・。

付属の1.2mケーブルは布巻きOFCということで、品質も扱いやすさも優秀なケーブルです。しかし、このWOOD 01というヘッドホンの性質上、アウトドアでアクティブに、というよりは、自宅のリビングでまったりと美しいサウンドを楽しむ、といった嗜好品的イメージが強いので、家庭でじっくり楽しむためにも、2.5mくらいのロングケーブルが欲しくなります。

勝手ないちゃもんをつけるようでJVCの開発者の方には申し訳無いのですが、個人的には、この「1.2mケーブルで、3.5mm端子のみ」、というスペックが、なんとなく「あー、これはポータブル用途のカジュアルヘッドホンなんだな」といった先入観につながってしまうような気がします。

開発のポリシーなど、事情は色々あるとは思いますが、ここであえて(オプション販売でも良いので)、長めの仰々しい高音質6.35mmとかXLRバランスケーブルなんかを展開することで、「WOOD 01は妥協しないユーザーに向けた高音質ヘッドホンなんだ」というイメージを植え付けることになると思います。

その辺、たとえばKIMBER KABLEとのコラボを行ったソニーMDR-Z7とかは、カジュアルを装いながら、さらなる高みへと「期待を持たせる」マーケティングが上手だなと思いました。

もちろん、WOOD 01は能率がとても高いヘッドホンなので、ポータブルDAPやバッテリ駆動USB DACなどと併用するユーザーの割合は多いでしょうし、そういった意味では「リモコン無しの1.2m両出し3.5mmケーブル」というのはベストな選択だと思います。

ベイヤーダイナミック T1 2nd Generationのケーブルは使えました

ベイヤーダイナミックのケーブル(左)は取っ手部分がギリギリ合いました

ちなみに、同じく3.5mm左右両出しのベイヤーダイナミックT1 2nd Generationケーブルを試してみたところ、ちゃんと音が出ました。一見奥まで差し込めないように見えますが、ギリギリOKなようです。これでベイヤーの3mバランスケーブルとかも使えそうですね。

ドライバとイヤーパッド

イヤーパッドは楕円形の三次元縫製で、耳の周辺にピタッとフィットする合皮素材です。

オーソドックスで、フィット感が良さそうなデザインです

イヤーパッドは快適です

見た目はやはりソニーMDR-1AやオーディオテクニカATH-MSR7に酷似しているのですが、それらよりも厚みがあり、フィット感は良好です。実際手にとって装着してみると、WOOD 01はそれら他社モデルと比べて一回り大きく、重量差もあるので、親子や兄弟くらいサイズ感が違う印象を受けます。

左からATH-MSR7、MDR-1A、WOOD 01

上からATH-MSR7、MDR-1A、WOOD 01

ソニー MDR-1Aとほぼ同じスタイリングですが、WOOD 01のほうが重厚です

側圧は比較的強めで、ATH-MSR7と同じか、若干弱いくらいです。想像以上にガッチリとしたホールド感なので遮音性は良好ですし、頭を左右に振っても音像が乱れない安定感があります。こういった部分で、フィットがユルユルでカジュアルユースのソニーMDR-1Aとの差別化が感じられます。

注意点としては、装着位置にちょっと気を使わないと、耳たぶがドライバのグリルにぶつかってしまい、30分ほどでじわじわと痛くなってきました。他のヘッドホンではこんなトラブルはめったに無いため、自分の耳がそんなに飛び出しているとは思わないのですが、WOOD 01では痛くなります。ちゃんとベストな装着位置さえ見つかれば、4-5時間連続して使っても不快感はありませんでした。

イヤーパッドは着脱できます

イヤーパッドは着脱可能で、ハウジング上部に切り欠きが設けられているため、楕円形ながら、ぐるぐる回転しながら装着できるため、交換に四苦八苦せず手軽です。

中心のウッドドームが目立ちます

イヤーパッドを外してみると、ドライバ部分が前方に傾斜したデザインになっています。最近こういう配置のヘッドホンが増えてきましたね。色々なヘッドホンを聴いていると、やはりこのように前方傾斜しているほうがステレオイメージが前方に寄って、いわゆる「スピーカー的」になるみたいです。逆に、ドライバが傾斜無しで左右並行で配置されているタイプは、もっと脳内にサウンドが点在する解像感重視なモニター系サウンドになるようです。

まず一目見てわかるように、ウッドドームドライバのインパクトがあります。そして、その周辺には三角形のメッシュで覆われた音響ダクトのような構造も見えます。単純にウッドドームだけではなく、トータルな音響設計のこだわりを感じさせます。こういったハウジング内での空気の流れでチューンが可能なのが、コンパクトオンイヤーと比べてアラウンドイヤー型の大きなメリットだと思います。

公式サイトの展開図を見てもわかるように、ウッドドーム振動板といっても、40mmドライバ全体が木製というわけではなく、外周はソニーやオーディオテクニカと同様な透明のプラスチック製で、センター部分に木製ドームを接着したようなハイブリッド構造になっています。

大型スピーカーにおけるセンターキャップ構造同様、実際この部分がガチガチに固くても一応音は鳴るため、どの程度までがウッド振動板と呼べるのかは謎です。たとえばゼンハイザーHD800なんかはセンターキャップ無しでぽっかり穴が開いているドーナツ状の「リングラジエーター」構造になっています。ようするに、木製だから良い音になる、という単純なアイデアにとどまらず、素材のコンビネーションで、トータル性能として高音質を目指すのは困難だったろうと想像できます。

ハイブリッド構造というと、振動板全体に金属コーティングしたり、二枚の振動板の間にジェルを封入したサンドイッチ構造などがありますが、このWOOD 01のように、中心と外周で素材が異なるというのは珍しいです。なんとなく、AKGのVarimotion技術に似ているようにも思えます。

下位モデルWOOD 02との差別化としてWOOD 01に導入されている「ウッドバッフル」や「響棒」などの追加パーツは、ハウジング内部の構造なので、外観上は確認できません。

エージングとか

WOOD 01を購入するにあたって、事前にネットでレビューや評判を一通り検索してみたのですが、それらによると、とにかく初期のエージングがとても重要だ、ということでした。なんでも、開封直後のサウンドはヒドいらしいです。

そこまで言うほどヒドいのか、と興味津々で、新品を開封して即座に聴いてみたのですが、案の定、「これはちょっと・・・」と思うくらい不思議サウンドでした。モコモコしたハリの無い音色で、耳に綿を詰めてスピーカーで聴いているような感覚です。

エージングとかバーンインとか、色々言われていますが、ヘッドホンにおいては、やはりそういう慣らし運転が重要なようです。一部の高級ヘッドホンでは、工場で出荷前にテストを兼ねた長時間のエージングを行っているようですが、さもなければ一般的には新品開封後の第一印象というのはアテにならないようです。

前後に激しく動く振動板の機械的慣らしはもちろんのこと、意外とイヤーパッドのクッションが顔に沿って潰れてきたり、さらには耳に装着することで蒸れて、汗や湿気で部品が劣化することも、エージングの一貫です。経年劣化とエージングは表裏一体ですね。

つまり、爆音で鳴らしっぱなしで放置しただけのエージングと、実際に耳に装着してリスニングを経たエージングというのは、それぞれ別の効能があるのかもしれません。

今回WOOD 01の場合は、日頃40時間ほど実際のリスニングを行ったのと、使っていないときはプレイヤーのリピート再生で200時間ほど鳴らしっぱなしにしたので、それらを経ての印象です。

鳴らしこんだあとに改めて試聴してみると、明らかにモコモコ感が解消されていました。音抜けが良くなったというか、高音域が綺麗に伸びています。

リスニングには、おもにChord Mojoを使いました。大型据え置きアンプを使ってもよかったのですが、WOOD 01は1.2mケーブルで3.5mm端子ということで、こういったポータブルアンプと合わせるのが理に適っていると思います。

買うタイミングを逃してしまった、大人気のSU-AX7

JVCでメーカーを揃えるなら、ポータブルDACアンプのSU-AX7が評判良いみたいですね。個人的に気になっているモデルなのですが、もうそこそこロングセラーというか、古くなってきたので、そろそろ後継機や上位モデルなどを期待したいです。ちなみに個人的にはネイティブDSD256再生が欲しいのですが、JVCというかビクターはK2もありますしアンチDSDっぽいので望みは薄そうです・・。

今回、AK240などのDAPでも使ってみましたが、WOOD 01はどのプレイヤーと合わせても、音量やパワー感が不足するような事は一切ありませんでした。とても能率が高いため(105dB/mW)、あまりソースを選ばすに能力を引き出せるヘッドホンだと思います。インピーダンスは56Ωということで若干高そうに見えますが、この高能率のおかげでDAPでもスマホでも余裕で音量が出せます。

逆に、あまりにも能率が高いため、ノートパソコン直挿しでYoutubeを見ている時などでは、ボリューム最低付近で調整幅が足りないということもありました。

音質について

このWOOD 01のサウンドについて前評判から予想していたのは、ウッドらしくマイルドで聴きやすい、スムーズ系サウンドなのかな、という先入観がありました。しかし、いざ聴いてみると、その想像とは真逆のパワフルでエネルギッシュなサウンドでした。

見た目とは裏腹にユニークなサウンドでした

とくに特徴的なのは、密閉型ヘッドホンとしては珍しい、「逆三角形」型のサウンドステージ展開です。どういう意味かというと、高音の伸びや空間余裕が密閉型にしては広々としており、特にドラムのハイハットや、ヴァイオリン、フルートなどが、AKG並に美しく、自由な音場に広がっていきます。そして、それと反比例するかのごとく、低音のフォーカスや締りが良く、力強さと明瞭感が両立しています。

一般的な密閉型ヘッドホンでは高域が先細り、低域がボンボン鳴り響くというタイプが多いので、それとは真逆という意味での「逆三角形」サウンドです。高域寄りという意味ではなく、音場に広がりについての表現です。

HA-FX850など、JVCウッドドームイヤホンを愛用しているオーナーであれば、その延長線上で同じサウンドのヘッドホンなのかと期待しているかも知れませんが、実は結構違うと思いました。少なくとも、私の使っているHA-FX1100はもっと全体的に線が太く、ストレートな高域に、低音がふわっと豊かに響く感じで、WOOD 01とは真逆の、ごく一般的な「三角形」的サウンドです。

とくに、WOOD 01の高音のすがすがしい魅力は全く予期していなかっただけに、その素晴らしさに驚かされました。ウッド振動板のメリットというのは、太い低音だけではなく、高音の美しい伸びにも貢献しているのかも、と納得させるに十分な、レベルの高い音色と広がりです。

また、低音は弾力があり、インパクト十分なのですが、意外にもボワボワと反響せず、コントロールがよく効いています。ハウジングに邪魔されず、ドライバだけが鳴っている、という表現があてはまります。これはハウジングに強固で振動損失の高いウッド合板を採用しているからかもしれません。低音にパンチのある曲を聴いている際にハウジングを手で触ってみても、外側にはほとんど振動が伝わっていません。

音像は「センター寄りの前方投影型」で、ドライバが傾斜しているせいなのか、脳内で音像が右往左往に飛び回るというよりは、目の前のスピーカー的イメージです。とはいってもHD800みたいな遠くへ伸びる奥行き感は無いです。全体的に近いなりに一定の距離感があって、安易に乱れないため、リスニング向けヘッドホンとしては的確なチューニングだと思いました。

似たような系統のサウンドとして思い浮かぶのが、ソニーのMDR-Z7なのですが、ソニーのほうがドライバやハウジングが大口径なせいか、空間が幅広くコンサートホール的です。その分低域がボワーっと広がりすぎて、切れ味やフォーカスが不足しがちです。

同様に、オーディオテクニカATH-W1000Zも密閉型の優良モデルとして気になる存在です。WOOD 01を聴いた後にW1000Zに変えると、広々としたステレオ音場がパーッと広がる感じで、さすがオーディオテクニカという感じのクリアなオープンサウンドなのですが、その一方で、この広さが仇になり、淡白で音楽との距離感が退屈さにつながりそうな気もします。

WOOD 01は、もっと音楽の中に飛び込むような、難しいことはぬきにして、純粋に演奏の美しさを味わえる魅力が感じられます。たとえばジャズや室内楽アルバムのように、間近で味わいたい、コンサートホール的な音響は無意味な場合、MDR-Z7やW1000ZなどよりもWOOD 01のほうがグッと来るメリハリやエネルギーが感じられます。


Challenge Recordsから、Hannes Minnaar演奏、Jan Willem de Vriend指揮オランダ交響楽団による、ベートーヴェン・ピアノ協奏曲1・2番を聴いてみました。前作の4・5番に続く新譜で、2015年録音のDSD256ダウンロードアルバムです。

4・5番では若干気張っていてスケールの小さい演奏が気になりましたが、この1・2番ではハイドンなどの古典に通じる風通しの良い作風も相まって、軽快で楽しい演奏が好印象でした。

WOOD 01は、単にアクの強い美音サウンドの枠に留まらず、このような高レート録音を十分に活かせるだけの見通しの良さやレンジの広さを備えています。このヘッドホンのパンフレットにある「ハイレゾ再生仕様」がどういった意味かはいまいちわかりませんが、少なくとも高レート音源の魅力は十分伝わってきます。こういった部分が、単なる小型密閉型ヘッドホンとは一線を画する性能格差なのかもしれません。

このピアノ協奏曲録音をWOOD 01で聴いていて、全てバラ色というわけではなく、実は、ひとつ大きな問題点を感じました。

それは、中域~中低域に現れる過剰な反響です。とくに、ピアノ鍵盤でいうと左手と右手が交差するくらいの音域に癖があります。その付近に金属的な響きが常に発生して、これが不快です。とくにピアノのコード演奏で容易に感じ取れるのですが、この特定の帯域だけ、ピアノが「グワーン」と過剰に響きます。

なんか中国のドラ(銅鑼)とか、中華鍋を「グワーン」と叩いたような、鈍いメタリックな響きです。これはウッドというよりも、JVC特有のブラスリングとか、そういった金属パーツによる影響なのかな、なんて想像したりしますが、原因はなんであれ、この帯域だけがどうにも耳障りに響く印象でした。このせいでヌケの悪さを感じる人も多いと思います。

よく私がヘッドホン試聴時に試すテストで、「ボリュームをどんどん上げていったら、最初に目立つ(不快に感じる)要素はなんだ?」というチェックを行っています。つまり、音量が低いときは快適なヘッドホンでも、いざ音量を上げていくと、ハウジングの共振やドライバの歪みなど、弱点が顕著に現れてきます。そして、ヘッドホンごとに、たとえば高域がキンキン刺さったり、低域が息苦しくなったりなど、問題点が誇張されてわかりやすくなります。

そういった簡単なチェックをしてみると、WOOD 01で真っ先に気になるのが、この中低域の過度な包み込むような金属的残響です。これは、「こもっている」というのとは若干違っていて、よく密閉型ヘッドホンにありがちな「低音のブーミー感」や、「高域の抜けの悪さ」とはちょっと違って、よく伸びるワイドレンジサウンドの上で、特定の響きが上乗せされている、という印象です。曲によっては、これがプラスになることも、マイナスになることもあります。


色々試聴していて、WOOD 01 のサウンドが特に映えるシナリオの一例として紹介したいのが、チェコの名門シュプラフォン・レーベルから、1966年カレル・アンチェル指揮チェコフィルのマーラー9番です。

チェコの英雄的指揮者アンチェルが1960-70年代に残した数多くの録音は、2000年以降に「Ancerl Gold Edition」というシリーズでリマスターCD化されており、それらは総じて驚くほどの高音質に仕上がっておりオススメのシリーズです。全43巻のうち、半分くらいは地元チェコのマイナー作曲家を取り上げているため日本人にはあまりウケないと思いますが、それ以外はチェコ定番のドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、そしてベートーヴェンからストラヴィンスキーまで、かなり広範囲に渡るクラシック名曲ラインナップです。ゴールドのジャケットが目立つので、見かけたら是非購入することをおすすめします。(Wikipediaに全巻リストがありました:https://en.wikipedia.org/wiki/Karel_An%C4%8Derl_Gold_Edition

アンチェルとチェコフィルというのは、不思議とどのような楽曲でも造詣が深く、さすが東欧らしく、オーストリア系の音色の響きと、ロシア系の節回しを上手に両立させた、聴いていて心にグッと来る演奏が多いです。中でも、このマーラー9番はかなりの快演だと思います。

WOOD 01で聴き始めの第一印象は、なんかヌケの悪いモヤモヤした音だな、という感じです。でもそれも10分くらい聴いていると全く気にならなくなり、楽章の中盤に差し掛かってくると、耳が慣れてきたせいか、もはや麻薬的な魅力を発揮します。響きがとにかく濃厚で、「艶やか」という言葉がふさわしい鳴りっぷりです。特に弦アンサンブルの一体感で空気が震えて、音の渦に飲み込まれるような体験は、圧倒的な没入感です。

非常識なほどに弦がグワーッと、ティンパニがズドドドッと、みたいな擬音でしか表せないようなリッチな音色なのですが、これはやはり高域・低域がちゃんとよく伸びているからこそ出来る、単なる濃い味付けとは別格の高密度サウンドだと思います。

WOOD 01は特に古いクラシックのオーケストラ録音のような、オンマイク気味で、ホール残響よりも楽器の音色そのものを大事にしているような録音で威力を発揮するようです。このヘッドホンの凄いところは、ここまで響きを濃厚にしているのに、高域の繊細さやふわっとした空気感を一切失っておらず、綺麗に高いところまで澄んでよく伸びます。

また、音像は開放型と比べると結構近いものの、その中でも要素の分離が優れており、オーケストラの音色とは別に、奏者がページを捲ったり、指揮者の息使い、椅子のギシギシなどが意外とピンポイントで聴こえるのに驚きました。それでいて、ハイエンドモニター系ヘッドホンみたいにノイズ重視での聴き方にならないのが優秀です。そもそもこの1966年チェコフィルのアルバムのように、ホールの空間情報があまり深く録音されていない場合、たとえばモニターヘッドホンなんかで聴くと、混沌と、のっぺりとした絵画のようなサウンドに限界を感じてしまいます。


ビル・エヴァンスの1963年ライブ盤「At Shelly's Manne Hole」を聴いてみました。

西海岸が誇るドラマー シェリー・マンが経営していたジャズバーで録音されたライブ演奏です。

このアルバムも、あまり緻密な分析的ヘッドホンで聴くと、録音ノイズが邪魔になったり、演奏者がヒョロヒョロになるのですが、こういったライブ録音はWOOD 01がまさに得意としているジャンルです。

ステレオのセンターにエヴァンス、右にドラマーのポール・モチアン、左にベースのチャック・イスラエルズという構成です。63年という古い録音らしく、ステレオ感が不自然に広いのですが、WOOD 01ではドライバの前方傾斜のおかげか、あまり耳触りに聴こえず、まさにジャズバーの最前列シートで生演奏を味わっているような体験です。

ピアノトリオを聴いていると、WOOD 01の特性が露わになります。ドラムのハイハットはシャンシャンと空気感豊かになっており、決して硬質に刺さらず、美しいです。ピアノはタッチが瑞々しくシングルトーンがよく響き、こちらに向かって音の塊が飛んでくる感じです。しかし前述のとおり、響きに癖がある周波数帯があり、重いコードはちょっと位相乱れのような拡声器サウンドになってしまうことがあります。

そして、ベースが実に素晴らしいです。ゴムボールのように弾性があって、一音一音がズシンと実体感を持っています。それでいて、決してサブウーファー的な空気がボンボンする鳴り方ではなく、よく密閉型にありがちな耳に不快感を与えないのが驚異的です。ここまでウッドベースの鳴り方が優秀なヘッドホンというのは稀ではないでしょうか。ピアノトリオが好きな人は、これだけのために試聴する価値があると思います。遠くの音を解像してノイズに目くじらを立てるのではなく、演奏そのものが自分の前にやってきてくれる、そんなサウンドです。

一曲目が終わって、観衆の拍手があるのですが、その拍手のリアルさ、空間の雰囲気になんかグッとくるものがありました。この狭い密閉型ハウジングなのに、目の前のステージ上で繰り広げられる演奏と、自分の周囲の拍手喝采が、全く別モノとして空間がクリアに分離されているのが摩訶不思議です。

録音が優秀であるということももちろんありますが、それがこのヘッドホンによって120%活かされています。

ただし、この効果は、ときには過剰と思える場面もあり、たとえばヒョロヒョロで薄っぺらい録音を蘇らせるための一種のオーバードライブ効果としては有効ですが、元の録音がコッテリ系の場合は、WOOD 01では各楽器の響きが重なり合いすぎて、過剰に感じることもあります。

上記のビル・エヴァンスによるアルバムでも、有名な「Waltz for Debbie」「Sunday at the Village Vanguard」、そして今回紹介した「Shelly's Manne Hole」などのライブ盤ではWOOD 01 が絶好調なのですが、「Portraits in Jazz」「Explorations」などのスタジオ録音ではエヴァンスのピアノがステレオ目一杯に誇張気味にプロデュースしてあるため、WOOD 01では頭痛のごとくグワングワン鳴り響いてしまい困りました。

こういう癖の強さは、ジャズのJBLやアルテック、クラシックのタンノイなど、大時代的なビッグサウンドスピーカーで試行錯誤をしているようなレトロ感があります。スピーカーであれば設置調整でどうにかセッティングができますが、ヘッドホンは装着位置が固定されてしまうため、サウンドが合わないときはお手上げです。

ようするに、WOOD 01は素直なライブ録音に特化したヘッドホンだと思いました。また、ジャズやクラシックにおいては、50年代モノラル録音とかのヒョロヒョロ感を払拭して、極太で、なおかつカマボコにならない広帯域サウンドで味わいたい、というマニアにはうってつけのヘッドホンです。

私自身も、このヘッドホンを手に入れてから、音質が厳しい1940年代のチャーリー・パーカーやレスター・ヤングなどをもう一度聴き直してみるのが楽しくてしょうがないです。

まとめ

JVC WOOD 01は、異色ながら凄まじいヘッドホンです。万能ではないものの、聴くジャンルによっては、「もはや、これしかない」と惚れ込んでしまう人も多いと思います。

比較的狭い空間なのに、要素の分離やメリハリがちゃんとしており、柔らかく伸びやかな高域と、弾力的で力強い低音がとても魅力的です。ジャズやクラシックに合うなんてよく言われているみたいですが、まさに本物の生楽器での優秀録音でないと、このWOOD 01の良さは引き出せないな、と感じました。大げさに言えば、「思い描く理想的な楽器の響きに限りなく近づけるサウンド」だと思います。

弱点として、中高域に金属的な響きが強く感じられるので、とくにテナーサックスや、ピアノソロ演奏などでは響き過剰で音場が埋もれてしまうアルバムが多々ありました。明らかに万能ヘッドホンではありません。

独特の響きの強さは薬にも毒にもなります。たとえば中域をもっと引き出したい場合には特効薬かもしれません。ジャズやクラシックだけではなく、ボーカル主体のアコースティックライブ、ブルースやフォークミュージックなんかでは相性が良いです。

また、普段Youtube動画などを観覧するときにも使っていたのですが、番組の声の部分が明朗で艶っぽくなるのが意外な発見でした。映画やアニメ鑑賞など、声の魅力を引き出したいのであれば、モニター系よりもこちらのほうが性に合っています。

私みたいに毎日多種多様なヘッドホンで遊んでいると、いまさら何でもこなす万能ヘッドホンが欲しい気も起こらず、それよりもメーカーが主張する音作りや、サウンドのクセを味わいたくなってきます。(その考えそのものが、泥沼のヘッドホンスパイラルですね)。

逆に、そうでもしないと、録音に込められた音楽の魅力をこれ以上引き出せないかも、なんて思っていたりします。つまり、全方面において90点が出せるレファレンスヘッドホンを一通り通過したら、ある一点だけでも120点が出せるような特異性を持ったヘッドホンが魅力的になってきます。JVC WOOD 01というのはそういうタイプのヘッドホンなのかもしれません。

JVCのHA-FX1100やHP-DX1000を聴いている時もそう感じるのですが、JVCが考えるオーディオの音作りというのは、フラットチューニングとか、測定上歪み率とか、そういったお手本的な方向性とは異なったポジションにあると思います。社内の試聴で目指している合格点が他社と違うのか、なんというか、明確な意思を感じさせてくれます。また、JVCといえばビクタースタジオですが、プロ用スタジオモニターとWOOD 01のような観賞用オーディオ製品の線引が明確なのもユニークな点です。

そのJVCが目指した音作りがぴったりハマるリスナーの場合には、それが極上の逸品となるのですが、たとえば万能型ヘッドホンを追求してHD800などと比較してみると、WOOD 01は粗だらけの欠陥品のように感じてしまいます。

WOODシリーズは突然変異的に生まれたイロモノではなく、じっくりと練り込まれた上での個性的な音作りなので、簡単な比較試聴で済まさず、じっくりと魅力を探ってみる価値のあるヘッドホンだと思いました。

こういうヘッドホンを聴いていて、大事だなとつくづく感じるのは、長時間リスニングしていて、音楽が楽しく聴こえるか、それとも、ヘッドホンの悪い癖だけが目立つか、ということです。一分間のA/B比較では素晴らしいと思えるヘッドホンでも、実際に一時間通して聴くと辛かったり、退屈で眠くなったりしますよね。そして、その逆に、クセは強いのに、不思議とずっと聴いていたいと感じるヘッドホンもあります。そういう単純なことを気づかせてくれる、魅力的なヘッドホンです。