2015年10月22日木曜日

Chord Mojo DAC のレビュー

英国の名門オーディオメーカー「Chord Electronics」から、USB DACの「Mojo」を紹介します。

2015年10月発売の商品で、バッテリー駆動のいわゆる「ポータブルDAC・ヘッドホンアンプ」というジャンルになります。

Chord Mojo

Chord(コード)社というと、ヘッドホンマニアにとっては最近注目を浴びた上位機種の「Hugo」が有名ですが、今回発売された「Mojo」の製品コンセプトは、人気商品「Hugo」のエコノミークラスといった扱いで、コンパクトな筐体ながら高音質を継承して75,000円という低価格に抑えた意欲的なモデルです。

個人的に、25万円のHugoは高価すぎて手が出せずにいたので、今回の10万円を切るMojoという商品ははまさに「渡りに船」といった感じで、ネットでリリースが発表された時点でレビューなどを気にせずに真っ先に注文しました。

Chordというと、奇抜なデザインと同時に、他のメーカーとは異なる独自のD/A変換技術を長年使っている異色なメーカーであり、私自身もQuteHDというDACを愛用していたので、そういった面も含めて紹介しようと思います。

毎度のことながら、今回も試供品サンプルなどではなく、自腹を切って購入した製品版です。


今回「Mojo」のリリースは電撃発表だったようで、2015年10月15日に正式アナウンスされた時点ですでに英米の幾つかの大手販売店に在庫が発送され、その当日から販売が開始されました。

Head-Fi掲示板の「Mojo」スレッドも、10月15日に開設された時点ですでに現物を手にしているユーザーが何人かいて、大いに盛り上がりました。

私自身も、リリース当日に問い合わせて購入したものが、先日無事エアメールで届いた状況です。

ちなみにMojoとは英語で「不思議なチカラ」とか「神秘的なパワー」とか、そういった意味がありますが、基本的に60年代のファンキーなスラングで、最近はあまり使われない死語です。

Chord社における商品のネーミングセンスは本当にヒドく、人気商品のHugoも、「大した意味は無いけどモバイルだからYou GoでHugoだ」、みたいなジョークを真顔で言ってました。

最近発売された超高級DACですら「DAVE」なんていう名前をつけているので、きっと社内で和気あいあいネーミング大会とかで盛り上がっているのでしょう。(ちなみにDAVEは「Digital to Analogue Veritas in Extremis」の頭文字らしいですが、わざと仰々しくしたジョークでしょう)。

少なくとも、Mojoのほうが「ATH-CKS55Xiの後継機のATH-CKS550iS」なんていう名前よりは覚えやすく愛着がわくと思います。

Chord Mojoのスペック

Mojoの詳細スペックについては公式サイト(http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_1701.php#1)が参考になりますが、768kHz PCM、DSD256という最高スペックの音源を再生できますし、マイクロUSB入力以外では、S/PDIFデジタル入力に光と同軸の両方を搭載しており、ヘッドホン出力は3.5mm二系統と、コンパクトながら最新技術を詰め込んだ商品です。

逆に言うと、OPPO HA-2など最近主流のポータブルDAC・ヘッドホンアンプと同等の、ありふれた構成ともいえます。

AKG K3003とMojo

残念ながら2.5mmなどのバランス出力端子は装備していませんので、シングルエンド用途を想定しています。二系統の3.5mmコネクタを使ってどうにか遊べるかもしれませんが、メリットがあるかどうかは不明です。

そもそもChord社自体がポータブル用途でのバランス出力にあまり積極的ではなく、上位モデルのHugoにおいてもバランス出力は採用していません。バランス出力のメリットは「差動増幅による同相ノイズの低減」なので、そもそも根本的にノイズの少ないChord製品ではバランスにするメリットは少なく、部品点数の増大やグランドの安定度悪化など、デメリットのほうが多い、ということらしいです。私自身は他社のヘッドホンアンプでバランス接続による音質向上を感じたことがあるので、これについてはなんともいえません。たとえばシャーシアースに同相ノイズが乗りやすいコンセント電源を使った据え置き型DACであれば、バランス駆動も実用性があると思います。

Mojoのヘッドホン出力は35mW(600Ω)・720mW(8Ω)で、3V固定のライン出力モードも備えています。(Chordの製品はなぜかライン出力が中途半端な3Vなんですよね)。出力については、あとで実測してみます。

ChordのD/Aコンバーター

Chord社はイギリスに本社を構えるオーディオ機器メーカーで、パワーアンプやネットワークオーディオ、そしてとくにDAC製品においてはユニークな構想で絶大な支持を得てハイエンド・オーディオ業界では一目置かれている存在です。ド派手なケースデザインも、一目置かれる理由でしょうか。

派手なアルミやメッキボディとイルミネーションが目立つChord製品
過去商品には金メッキ仕様なんてのもありました・・

ケースのデザインはさておき、 Chord社のDAC製品が特別なのはそれなりに理由があります。

一般的なオーディオメーカーによるDAC製品というのは、D/A変換そのものはバーブラウンやESSなどの半導体メーカー製チップを搭載して、その周辺の電源やアナログアンプ回路などの設計でメーカー独自色を出す、いわゆる「外堀を埋める」手法をとっています。(東芝やDELLなどのパソコンメーカーが、CPUを自作せずにIntel製CPUを搭載するのと同じですね)。

Chord社のDAC製品は、このように既成品のチップを採用する手法とは違い、独自コードのFPGAプロセッサを駆使した自社開発の「WTAフィルター」と「パルスアレイDAC」という2つの技術を採用しており、他社製品との差別化を図っています。

独自技術に基づく設計というのは、モデルが世代交代しても音響設計の芯がブレないため、音作りにブランド独自の個性が出てきます。つまり、一度その虜になってしまうと、もはや他の選択肢などありえないというほど悪魔的な魅力のあるメーカーです。

ChordのDAC製品

Chord DAC64

Chord社のDACは、2001年に発売された「DAC64」というモデルにて、その高音質から一躍有名になったように思います。DAC64は販売価格が36万円というハイエンド商品で、当時はまだUSB接続のPCオーディオというものが一般的ではなかったため、S/PDIF(AES/EBU)入力のみでした。

Chordのハイエンドシステム

QBD76

DAC64はその後も「DAC64 MK2」、そしてUSB入力を導入した76万円の上位機種「QBD76」シリーズも登場し、さらに2015年には「Chord DAVE」という160万円(!)の超高級DACもデビューしました。このように着々と進化しているのですが、流石に高価すぎて私ごときではなかなか手を出せない商品です。

2015年発売、160万円の「DAVE」DAC

とくにD/Aコンバーターというのは日々進歩している一種の「ハイテク商品」なので、スピーカーやパワーアンプなどと比較して商品価値の陳腐化が激しく、おいそれと30万円以上を投資できるような人は限られています。

個人的な印象ですが、Chord社の悪い癖は超ハイエンド製品にも奇抜な最新技術を搭載してしまうことで、たとえば76万円の「QBD76」にBluetoothアンテナを装備してあったり、ド派手なカラーLEDイルミネーションや、アルミ削り出しの宝石のようなケースなど、一体何に対して76万円を払っているのか付加価値が不明瞭な部分があります。(もちろん値段に見合った音質はあると思います)。あの奇抜なケースデザインが受け入れられず敬遠している人も多いみたいです。

私自身も、以前Chord QuteHDを寝室で使用していた際に、ケース上部のレンズのような窓からプラネタリウムのごとく虹色のLEDイルミネーションが展開され、非常に美しい、というか目障りでした。

Chord Chordetteシリーズ

2011年にはハイエンドモデルDAC64の技術を「Chordette」と呼ばれる小型ケースに詰め込んだベーシックモデル「QuteHD」が発売され、価格は15万円に抑えられているもののChordらしい高音質はキープしていたため大ヒット商品になりました。私自身も当時念願のChordがやっと買えると、これを喜んで購入しました。

Chordette QuteHD

ChordetteシリーズにはGoogleモデルなんてのもありました

QuteHDはDAC64の廉価版という位置づけにもかかわらず、USB接続でPCM 192kHzそしてDoP DSD対応と、当時の最先端を行く進化を遂げた意欲的商品でした。

2013年にはQuteHDをPCM 384kHzと11.8MHz DSDに対応させた「Qute EX」が発売され、(これはQuteHDから有償で基盤交換アップグレードが可能でした)、さらに2015年には後述する「2Qute」というモデルに世代交代しました。

あまり話題にならないToucanヘッドホンアンプ

これらChord社のQuteシリーズは固定ライン出力のみの据え置き型DACなので、プリアンプやヘッドホンアンプなどが別途必要になります。実際Chord社はQuteシリーズと合わせる「Toucan」というアナログヘッドホンアンプも販売しているらしいのですが、現物は一度も見たことがありません。

余談ですがToucanというのは辞書をひくと「オオハシ」というクチバシの大きい南米の鳥の名前なのですが、ヘッドホン出力が2つ付いているので二人同時で「Two can」という命名だそうです。

Chord Hugoシリーズ

DAC64やQuteシリーズとは別に、2014年にChord社が最近のポータブルオーディオブームに堂々参入してきたのが「Hugo」というモデルです。

大人気のChord Hugo

25万円という価格はポータブル用途ではかなり高額な部類に入りますが、「バッテリー駆動のUSB DAC+ヘッドホンアンプ」というごく一般的なコンセプトの中でも飛び抜けた高音質が評価され、異例の大人気商品になりました。とくに、ハイエンドサウンドでありながらポータブルヘッドホンアンプでここまで高出力でパワフルというのは前代未聞だったと思います。

Hugoのデラックスバージョン「TT」

Chord社はHugoの成功からバリエーション商品を展開しており、据え置き型に特化した大型モデル「Hugo TT」(55万円)や、QuteHDのケースにHugo系の新世代D/Aコンバータを移植した「2Qute」(22万円)などがすでに登場しています。

これらはどれも家庭でのデスクトップ利用を想定しているため、Chord社のポータブルオーディオ製品というと「Hugo」一択でした。

このHugoは確かに高音質なのですが、「スピーカーすら駆動できる超強力アンプ回路」や、「aptX対応Bluetoothレシーバ機能」など、無駄にオーバースペックな部分もあり、高価で大振りな筐体もポータブルでの使い勝手が悪く、「もう少しコンパクトで低価格な、純粋にChordの音質が楽しめる製品がほしい」という一般ユーザーの願いが、今回のMojo発売に繋がったと思います。

Chord Mojoのパッケージ

Chord Mojoのパッケージ

説明書は箱の底に印刷

箱の側面にはLEDカラーの説明が

パッケージは非常に簡素な白い紙箱です。最近の中華DAPメーカーですらもっと上等なものを使っているように思います。よく見るとうっすらと「Chord」とラメ印刷されているのですが、写真映えはしません。

本体と短いUSBケーブルのみ

USBケーブルは非常に短いです

中身は、透明なジップロック袋に入った本体と、非常に短いマイクロUSBケーブルが一本入っているだけです。説明書や保証書などは一切入っていなかったのですが、よく見るとパッケージの外周に説明がびっしりと書いてあります。(日本向けモデルでは、代理店が日本語マニュアルなどを同梱するのかもしれません)。

USBはデータと充電が別系統です

ヘッドホン出力は2つありますが、回路と音量は共通です

裏面は高品質なビス止め構造です

本体は非常にコンパクトながら重厚で、さらさらとした手触りです。黒いマット調のコーティングは、簡単に擦れて傷が付きそうなので注意が必要です。本体側面には3.5mm同軸と、四角TOSLINK光S/PDIFデジタル入力、そして2つのマイクロUSB端子が見えます。USB端子の詳細については後述しますが、DAC用と充電用で分けてあります。反対側の側面には、3.5mmヘッドホン端子が2つ搭載されています。本体裏面はゴム製の足と、組み立て用のビスがあるだけです。


丸いガラスのようなボタンは実は球体が埋め込んであります

派手なイルミネーション

Mojoの一番ユニークな点は、本体上部にある3つの半透明の球体だと思うのですが、これらが電源とボリューム上下のスイッチになっています。

実はこの球体は、半透明のスモークガラスのような玉で、その玉の下にスイッチとフルカラーLEDが実装されているらしく、使用中は音量やサンプルレートによって派手にイルミネートされます。本体を手で握ると、ちょうどこの球体が指の位置になるのですが、本当に丸い玉なので、触るとくるくると自由に回転することができ、不思議な感触です。使い込むことでスモークガラスが透明になるのかな、なんて想像します。

フルカラーイルミネーションに関してはChordブランドの伝統なのですが、以前のChord製品では(私を含めて)眩しすぎて目障りだという人もいたので、隠しコマンドで輝度を落とせるようになっています。

LED電飾がサマになる風景

最近はいろんな製品がカラーLEDを搭載しているので、Chordのお家芸といえど10年前のような物珍しさは無いと思いますが、たとえばパソコン周辺機器とかのゲーマー高校生が好きそうなデザインです。オーディオというよりも、ゲーム機器とかと合わせると意外と似合います。

MojoとOPPO HA-2の比較

MojoとiFi Audio Micro iDSDの比較

サイズ的には、OPPO HA-2やiFi Audio Micro iDSDと比較して非常にコンパクトなのですが、厚みが結構あるため、スマホなどと重ねて使うのは困難かもしれません。ネットのレビュー写真などを見ると、旧AKシリーズ(AK100など)とジャストサイズらしいです。

Chord WTAフィルタとパルスアレイDAC

奇抜なデザイン以外でChord社のDAC製品がなぜ特殊なのかというと、開発者のロバート・ワッツ氏(Rob Watts)の貢献による部分が大きいです。Chord独自技術のWTA(Watts Transient Aligned)フィルタという名称も、彼の名前に由来しています。

また、ワッツ氏はHead-Fiなどの掲示板にたまに現れては有意義な書き込みを行ってくれるので、マニア的にも非常に尊敬されている人物です。

端的にまとめると、ChordのDACはPCM1792やESS9018などの既存のD/Aコンバーターを使わずに、高性能な汎用FPGAプロセッサを活用して独自の演算処理をプログラムすることで、デジタルデータに膨大な補完処理(オーバーサンプル)を施し、それを高速トランジスタアレイ(パルスアレイ)に流して直接アナログ変換するという技術です。

Chord社とワッツ氏が考案した「WTAフィルタ」と「パルスアレイDAC」という構成は、一般的なオーバーサンプルD/Aコンバーターチップと比較して、タイミングの正確さと、ノイズ変動の少なさが優れていると主張しています。

WTAフィルタ

WTAフィルタについて説明する前に、Chord以外の一般的なDACに搭載されているD/Aコンバーターチップの動作について簡単におさらいします。

最近主流のチップは、バーブラウン、シーラスロジック、ウォルフソンなど各種半導体メーカーがしのぎを削っていますが、どれも基本的な動作は一緒です。

入力されたPCMデータは、サンプルレートに応じて8倍(352.8kHz)などにオーバーサンプルされた後、256倍(11.29MHz)などの高速なΔΣ変調で多ビットPDMに変換され、それがSCF(スイッチド・キャパシタ・フィルタ)でアナログ電流に変換されます。

各チップメーカーごとにいろいろなギミックがあり、SCF以外ではバーブラウンPCM1792のように上位ビットにカレントセグメント(トランジスタスイッチ)を一部利用しているものもあります。PDMデータのビット数も、4~5ビットが多いですが、メーカーごとに「高速で低ビット」か「低速で高ビット」など、調度良いところを狙っています。

ようするに、チップ内部で44.1kHz 16bitのデータを11.29MHz 4bitなどの高速データ信号に変換した上で、アナログスイッチを駆動させるという手法です。

最近では、8倍オーバーサンプルをD/Aコンバーターチップに頼らず、オーディオメーカー独自のチップで「アップサンプル」するのも人気があります。単純に整数倍でオーバーサンプルする(いわゆるシャープロールオフ)のではなく、窓関数をつかったアポダイジング・フィルタを使ったりする手法ですね(よくメーカーのパンフレットで見る、点と点を曲線でつなぐやつです)。

独自チップで192kHzや352.8kHz ハイレゾPCMに変換したものを、D/Aコンバーターチップに入力するのは、JVC K2やDENON AL32など、各社にいろいろなノウハウがあります。

WM8740のようなD/Aコンバーター専用チップと、MojoのFPGA

Chord社のDACも基本的な動作は上記と似ているのですが、これらの動作をFPGA汎用高速プロセッサに書き込んだコードで処理しています。

まず入力されたPCM音楽データは二段階のWTAフィルタでオーバーサンプルされ、この時点で音量調整などの処理が行われ、最後に高速リニアフィルタでオーバーサンプルされたものがFPGAから出力され、そのまま「パルスアレイDAC」と称するマルチビットのトランジスタスイッチでアナログ電流変換されます。

Mojoの公式スペックは発売の時点では公開されていないのですが、Hugoの場合はWTAフィルタが初段8倍、次段16倍で、最終的なオーバーサンプルが2048倍の5次ノイズシェーピングだったので(動作クロックは100MHz程度です)、一般的な256倍PDM変換とくらべてかなりの高速処理です。(ちなみに160万円のDAVEは17次ノイズシェーピングだそうです)。

HugoやMojoに採用されているXilinx FPGAは、一般的なDACチップと違い、膨大な並列処理が可能なため(数百MHzのDSPが数十個並列されているため)、これまでのDACチップのように入力されるシステムクロックに制限されず、2048倍オーバーサンプルのような高速処理が実現可能です。

たまに、後述する「タップ数」とオーバーサンプルを混同している人がいますが、タップ数というのはWTAフィルタで参照する前後データ数のようなもので、最終的な高速オーバーサンプル数とは無関係です。

タップ数の話ですが、Chord社は独自方式の「WTAフィルタ」にかなり力を入れています。一般的にはデジタルデータの前後数個のサンプルを参照して窓関数で近似波形を作る「アポダイジングフィルタ」を使うのですが(俗にいうスローロールオフとかのやつです)、WTAフィルタではFPGAの並列処理と膨大なメモリを活用して、極限までオリジナルのアナログ波形を再現しようという試みです。

具体的には、A/D変換というのは基本的にsinc(カーディナル・サイン関数)フィルタなので(というか矩形波のフーリエ変換がsinc波形なので)、無限大に長いsincフィルタを活用すれば、原理的にアナログ波形が再現できる、というようなアイデアのようです。

端的にはようするに前後に無限のデータを参照して高度な移動平均を求めれば、原音が再現できるということです。もちろん前後データの重み付けや並列処理などのノウハウのR&Dは気が遠くなる作業です。

フィルタのタップ数(簡単にいうと、計算に参照される前後データの数)はFPGAの処理能力に依存するので、FPGAが高速になればなるほど、WTAフィルタの性能もアップするという手法です。Chord社の歴代DACを参照してみると、

2001年 DAC64 = 1024 タップ
2008年 QBD76 = 14832 タップ
2011年 QuteHD = 10240 タップ
2014年 Hugo = 26368タップ
2015年 DAVE = 164000 タップ

といった感じで、モデル世代ごとに着々と進化しています。ちなみに今回のMojoについては発売時点ではまだタップ数が非公開なのですが、噂では、上位モデルのHugoとあまりにも近いため、Hugoオーナーにもうしわけなくて公表できない、なんて言われています。ちなみにワッツ氏によると、16ビット相当のアナログ波形を完璧に再現するには大体1,000,000タップ以上必要らしいので、だんだんそれに近づいていますね。

また、FPGAチップの消費電力も重要なので、たとえば160万円のDAVEに使われているFPGAは膨大な演算量が可能な反面、5Wもの電力を使うため(発熱も尋常でないため)、モバイル用途では利用できないそうです。これはデスクトップとノートパソコンの違いみたいな感じですね。

MojoのFPGAは、Hugoで使われた45nm Xilinx Spartan-6から、次世代の28nm Xilinx Artix-7 を採用することで、高速演算と低電力消費を両立することができたそうです。

Chord社の方向性が素晴らしいと思うのは、このように根本的な製品コンセプトを10年以上変えずに、時代とともにFPGAの処理能力が向上するにつれて、必然的にDAC製品の性能も自ずと上昇するという構想に先見の明を感じさせます。

余談ですが、このFPGAに書き込まれたプログラムコードはChord社にとって知的財産なので、悪意ある者にコピーされないようにプロテクトがかかっているらしいです。以前英Hi-Fi News誌がChord DACのレビューで測定を行った際に、ほぼすべてのベンチマーク測定で優秀な合格点をとったのですが、唯一インパルス測定だけは不合格でした。波形解析されないように、インパルス波形に対しては無音を出力するようFPGAに対策コードが書かれていたそうです。面白いですね。

パルスアレイDAC

最近では、パソコンのソフト上で44.1kHzファイルを352.8kHzにオーバーサンプルしてからUSB DACに送信するような手法を使っている人もいます。

ファイル変換をリアルタイムで行う必要はないため、高性能なCPUを駆使してChord同様に膨大なタップ数でアナログに近似させたハイレゾPCMファイルを作ることが可能です。

しかし、このような手法を使っても、結局送る先のDACのΔΣ変調方式や、以降のアナログアンプ回路の性能に依存するため、根本的な解決にはなっていません。

他社製品には、こんな複雑な重量級ヘッドホンアンプもあります

たとえば多くのハイエンドメーカーは、製品の付加価値を高めるために、大規模なアナログ増幅・バッファ回路を吟味してアンプのサウンドチューニングするのが一般的です。50万円の製品を売るためには、それに見合った価格相応の実装部品(つまり物量)が必要だという考え方もあります。

D/Aコンバーターチップでアナログ変換されたあとに、I/V変換回路、LPFアンプ、電圧増幅回路、DCサーボ、電流バッファ、そして音量調整用プリアンプなど、無数のオペアンプやトランジスタ、おまけに真空管なんかを通過する回路が高級オーディオでは一般的になっています。

Chord社のコンセプトはそれの真逆で、アナログ信号は抵抗やコンデンサなどをひとつ通過するごとに歪みが増えるのだから、極限までデバイス数を削ったシンプルなアンプ回路が必要だ、という考えです。もちろん、シンプルなだけで駆動力が足りなければ意味がありません。Hugoの開発時に「アナログ信号経路には、たった2個の抵抗とコンデンサしか無い」と言っていたので、Mojoも回路的に同様だと思います。

FPGAで生成されたパルス信号は、隣接しているトランジスタに入力されスイッチングでアナログ化されます。それがそのまま電圧変換されて出力されるので、非常にシンプルな構成です。HugoやMojoは「4エレメント」パルスアレイということで、各チャンネルごとに4つのトランジスタをアレイ化したものにパルスが送られます。(160万円のDAVEにおいては、20エレメントらしいです)。

独自D/Aコンバーターの意味

従来のD/A変換と比較して、パルスアレイDACの大きなメリットとしてChord社が挙げているのが、ノイズ変動が少ない、ということです。これはどういうことかというと、人間は絶対的なノイズの量(ノイズフロア)よりも、信号に追従する付帯ノイズの上下に敏感だ、ということです。

従来型のDACの場合、アナログ出力のノイズフロアは出力信号に依存するため、音楽に合わせて常にノイズフロアが動いているのですが、パルスアレイDACでは原理的にノイズフロアは信号に対して一定のため、これがリアルな音楽の再現性に貢献する、らしいです。

具体的には、ノイズが付帯すると音が固く聴こえるため、一見「高解像」だと勘違いする人も多いのですが、実際に音楽的な理想の再生は、もっと繊細であるべきたという主張です。

また、FPGA演算を駆使したWTAフィルタについては、デジタルオーディオについて詳しい人は、「でも人間は20kHz以上の音は聞こえないんだから、そんな高周波のオーバーサンプルをしても意味が無い」と思うかもしれません。

Chord社の見解によると、オーバーサンプルする意味は高周波を再生するためではなく、20kHz以下の可聴帯域において、音楽のアタック部分の立ち上がりタイミングを正確にするためだ、ということです。この立ち上がり部分が「空間情報や楽器の音色」を表現する重要な要素なので、これらがズレていると立体的な音場再現や音色の質感が悪くなる、ということです。つまりただ単にオーバーサンプルで時間を細分化するのではなく、高度なプログラムでサンプル間の実質的な波形を予測して再構築するのがWTAフィルタの意図だと想像できます。

具体的にタイミングがどれくらいズレているかというと、オーバーサンプル無しの44.1kHz 16bitデータだと、波形の立ち上がりに20マイクロ秒(0.00002秒)程度の誤差が発生するらしく、これは人間が認識できる時間軸のズレ(4マイクロ秒)よりも長いため、音質に影響するとのことです。こればかりはChord社の主張なのでなんともいえませんが、ようするに高周波というよりも音場の深さや音色の正しさを再現するというアイデアです。

また、そもそもD/A変換時にサンプリングのせいでこれだけ膨大な時間軸誤差が発生するのだから、マスタークロックをどれだけ高品位にしても(ルビジウム・フェムトクロックなど)、根本的な時間軸誤差の解決にはならないということです。

Chordの主張の一番興味深いポイントは、このような時間軸の正しさは、44.1kHzのデジタルデータ作成時に永久に失われるのではなく、一般的なDACでは十分なD/A変換ができないため再現できていないのだ、ということです。

オーディオマニアの中には、オーバーサンプルを悪行だと主張する「NOS」(ノンオーバーサンプル)信者がいるのですが(つまり44.1kHzは44.1kHzで再生することが一番「ピュア」だと信じている人のことです)、Chordの主張はこれの真逆で、音楽に重要なのは「44.1kHzに標本化されたデジタルデータの忠実な再現」ではなく、「標本化で失われたオリジナルのアナログ波形の復元」だということです。これについては、なんとなく納得できる部分がありますね。

つまり、ChordのDACは、ハイレゾPCMはもとより、既存の44.1kHz 16bit音源を再生するにあたり大きなメリットがあるようです。

これらの情報は100%Chord社の受け売りなので、実際に音質的に本当に効果があるのかというのは、音楽を聴いてみるまでわかりません。とくに、Chord社がWTAフィルタなどを導入した時代から、近年では他社製のD/Aコンバーターもかなり進化しており、Wolfson以降では旭化成やESSなども、それなりに頑張っていると思います。

しかし独自FPGAとインテグレートされたヘッドホンアンプというのは合理的ですし、メーカーのポリシーとしては非常に一貫性があるため、この方向性を突き進む意義はあると思います。また、最高位モデルの「DAVE」が全く同じポリシーを拡張したデザインを駆使して超高音質を得ていることも、十分な証明になります。

少なくとも、Chord社というのはオーディオに対する多大なる愛情と熱意を感じさせるメーカーだということは誰もが感じ取ることができると思います。

HugoとMojoの違い

ちなみに、Mojoが登場した際に、Hugoと比較してあまりにも値段が安いため、もしかするとChordらしいパルスアレイDACではなく、ありきたりなDACチップやオペアンプ増幅回路だったらどうしよう、と心配していたのですが、公式プレゼンに掲載されている内部写真を見ると、ちゃんとパルスアレイDACが確認できます。

Chord資料から、HugoとMojoの内部比較

Hugoの内部写真と比較してみると、FPGA以降のDAC・アナログ回路の構成は非常にそっくりなので、音質面ではかなり期待できそうだと確信しました。

基本的なコアパーツの、USBインターフェース、FPGA、パルスアレイDAC、アナログ出力アンプ、といった構成は非常に似ており(パルスアレイの数までそっくりです)、Hugoに搭載されている基板左右の大型電池が、Mojoでは基板裏の薄型電池になりました。

公式スペック上では、HugoとMojoのどちらも、600Ωで35mW、8Ωで720mW、出力インピーダンスは0.075Ωと、同じ数字が記載されているのが不思議です。低価格モデルなのに同じカタログスペックなんて、日本のメーカーでは絶対に社内OKが出ないですよね。

開発者ワッツ氏のHead-Fi掲示板での書き込みを見ると、Mojo開発当初は出力電流を0.2Aで設計していたけれど、試聴テストの際に超低インピーダンスヘッドホン(ファイナルオーディオPandora)を使った際に電流不足が感じられたので、製品版ではHugoと同様の0.5A出力に作り直した、とのことです。

もちろん使用しているFPGAがHugoのSpartan 6からArtix 7に変更されたり、駆動電源がコンパクトになったことなどは音質に影響してくると思うので、やはり物量投入的にはHugoのほうが優れている部分もあるとは思いますが、価格差を考えるとMojoが非常にお買い得感があることがわかります。

また、機能面では、Hugoで採用されていたクロスフィード回路が削除されています。

DSD再生

Chord MojoはHugoと同様にDSD再生に対応していますが、開発者のワッツ氏はDSDについてあまり好意的ではないようです。DSDよりも、DXDのような高サンプリングレートのPCMファイルの方を好んでいます。

DSDに好意的ではない理由は単純で、一般的なDSDファイルは2.8MHzという中途半端に低スペックなレートで1ビット変換されているため、ノイズフロアは3~5次ノイズシェーピングに埋もれてしまい(-120dB程度)、そのせいで可聴帯域で音楽のタイミング情報などが失われているからです。

ようするに、PCMであればChord謹製のWTAフィルタを駆使することで、可聴帯域でほぼアナログ原音を再現できるのですが、DSDの場合はすでにΣΔ変調されてしまっているため、微小信号をフィルタで復元することも出来ず、取り返しがつかないということです。DSD開発当時は良かれと思って採用した1bit 2.8MHzというレートも、ChordのWTAフィルタのマルチビット100MHzなどと比較すると、今となっては低スペックゆえの足かせとなっているみたいですね。実際DSDファイルは原理的に膨大な高周波ノイズを避けられません。

ともあれ、MojoにおいてDSDデータはPCM変換などを行われずに、WTAフィルタ処理後のPCM音源と同様に、そのまま次段のオーバーサンプルフィルタに入力されるので、実質的にネイティブ再生といえるようです。(内部処理は複雑なようですが)。

スマートフォンなどでのUSB接続

スマホ接続はMojoのセールスポイントなのでいろいろと試してみましたが、基本的に問題なく動作しました。

iPod Touchからカメラコネクションキット(CCK)経由で、Onkyo HF PlayerやRadius NePLAYERを使用して、ハイレゾPCMやDSD再生ができました。また、Android(Xperia Z3 Compact)からもOTGケーブルを使って同様のことができます。ちなみに掲示板などで、スマホ(iPhone?)を重ねると電波ノイズが聴こえるという報告を見ましたが、少なくとも自分の使っているXperiaではどんなに隣接させて電波を使っても、そういった問題はありませんでした。

NW-ZX1ウォークマンからは専用のWMC-NWH10ケーブルを使ってMojoで再生できましたが、これだけはなぜかウォークマンを再起動しないと認識しませんでした。

iPod + CCK + 付属USBケーブル

ハイレゾだと電源LEDの色が変わります

DSDだとLEDの色が白に

アンドロイド+OTG+付属USBケーブル

ウォークマンもソニーのケーブルで動きました

Mojoのスマホ接続は、CCKまたはOTGケーブルを経由して、さらにマイクロUSBケーブルを使うため、ケーブルがごちゃごちゃしてしまいポータブル用途での使い勝手は悪いです。

たとえばiFi micro iDSDでは本体端子に直接CCK・OTGケーブルが挿せる形状ですし、OPPO HA-2ではCCK・OTGケーブル不要のスマホ専用端子が搭載されています。他社製品でもこのような手法が多くなっています。

micro iDSDだとCCKだけでスッキリ接続できるのに

OPPO HA-2では、CCK無しで接続できるのに

ちなみに、まだプロトタイプ試作機の段階らしいですが、Mojoの側面に接続するアタッチメントみたいなものも作成中だそうです。見た感じiPhone用接続ドックらしいですが、Mojoが人気商品になってくれればこういったオプションもいろいろと出てくるかもしれませんね。なにやら無線、Bluetooth、SDカード再生ドックといった案も構想中だそうです。

まだ未発表の謎アタッチメント

PCへのUSB接続

USBコネクタ自体は、Hugoの時もグラグラしており壊れやすいと話題になっていたのですが、今回のMojoも若干貧弱です。一般的な細いマイクロUSBケーブルであれば問題ないようですが、冒頭の写真で見られるAudioquest Cinnamonという太いUSBケーブルを使ってみたところ、再生中のちょっとした振動ですぐに通信が切断されてしまい、使用を断念しました。

USB入力インターフェースに関しては、以前Chord QuteHDで四苦八苦した経験があるため、あまり同社に良い印象がありませんでしたが、Hugo以降は改善されたようで、今回のMojoもHugo同様に動作が良好です。今のところ使用中にこれといって不具合は感じていません。

以前私が使っていたQuteHDは2012年当時としてはいち早くハイレゾPCMとDSDに対応しており、とくにDoPが使えるというのがセールスポイントになっていました。しかし実際に使ってみると、どうにもUSBドライバが安定しておらず、どんなパソコンやUSBケーブルを使ってもPCMサンプルレートがおかしくなったり、プチプチとノイズが発生したりなどのトラブルが続出して、結局手放すことになりました。

2015年現在ではハイレゾPCMやDSDも一般的になり、Chord社を含め、どのメーカーもインターフェース設計が安定してきたようです。

Windowsでは公式サイトから専用ドライバをインストールする必要があります。Macの場合はドライバ無しで問題なく駆動します。今回はWindows 10とMac OS10.11で使用してみましたが、今のところトラブルはありません。

ヘッドホン出力はなぜか「Digital Output」

OSシステム音量とは連動していません

Windowsの場合は注意点がいくつかあり、まずOS上で標準オーディオデバイスとして選択する場合は、なぜかChord Async USB「Digital Output」として表示されます。これ以外の選択肢が無いので混乱することは無いと思いますが、一般的に「Digital Output」はS/PDIF出力などのことを指すので、ちょっと戸惑いました(他社のUSB DACでは「Speakers」扱いが多いので)。

また、他社でよくあるようなOSシステムボリュームと連動するタイプではないので、パソコン上のボリューム表示とMojoの内蔵ボリュームの動作は別々になります。ブラウザで動画視聴などの場合は気にする必要は無いですし、音楽鑑賞ではWindowsシステムボリューム(Direct Sound)はバイパスするのが一般的なので、通常のUSB DAC設定に慣れていれば悩むことは無いと思います。

ASIOとWASAPI、カーネルモードが選べます

たとえば、JRiver Media Center 21で使ってみたところ、Direct Sound以外では公式ドライバでASIOとWASAPI、Kernel Streamingモードの3種類が選べます。説明書ではKernel Streamingが推奨されているようですが、基本的にDirect Sound以外であればどれでも大丈夫だと思います。

ASIOでのDSDはDoPのみサポートされています
Kernel Streamingでは自動的にDoPになりました

ちなみに、小さな注意点としては、DSD再生は生データではなくDoP対応のみなので、他社のDACのようにASIOモードでDSD直接再生を選択すると、無音になってしまいます。

幸いJRiver Media CenterはASIOモードでもDoPに偽装することが可能なので、これを選択すると出音できます。Kernel StreamingモードではJRiverは原則的にDoPになるので、あまり気にせずともDSD再生が可能ですが、他のプレイヤーソフトでの挙動はわかりません。MacはDoPのみなので、心配いりません。WindowsのDAWなどでASIOのDSDに慣れている人は無音で焦るかもしれません。

もう一つ遭遇したトラブルは、パソコンにiFi micro iDSDを接続している状態で、同時にMojoを接続して再生しようとするとJRiverがエラーでクラッシュします。Kernel Streamingモード対応デバイスが二機存在するからですかね。micro iDSDのUSBケーブルを抜いておけば、MojoをJRiverで問題なく再生できました。

ちなみにS/PDIFはあまり興味が無いので試していないです。よくAKなどとTOSLINK光接続を使う人がいますが、あれは基本的にケーブルの品質と、曲げ角度によってプチノイズが発生するサンプルレート上限がかなり変わるので、もしS/PDIFでハイレゾPCMなどで不具合がある場合は、いろいろな同軸や光ケーブルをためしてみることをお勧めします。192kHzでも音飛びする光ケーブルには何度も遭遇しました。(そもそもTOSLINK規格自体96kHzが上限と想定しているのですが)。

電源について

Mojoは基本的にバッテリー駆動で利用することを想定しているのですが、その仕様がHugo同様にかなり風変わりです。

他社のUSB DACの場合、パソコンなどにUSB DACとして接続すると、そのまま充電が開始されるのですが、MojoはDAC用と充電用に2つのマイクロUSB端子を備えています。つまり、USB DACとして利用している最中も、別途充電用USBケーブルで給電しないと次第にバッテリーが切れてしまいました。(このデザインは、基本的にソニーPHA-3と似ています)。


充電用USB端子とLED

これはモバイル用途でスマホのバッテリーからバスパワー給電しないようにとの配慮でしょうけれど、せめてパソコンでのDAC使用時くらいは充電して欲しいものです。(やはりOPPO HA-2のアイデアが最善の回答だと思います)。

たとえば普段はパソコンでUSB DACとして活用して、外出時にはポータブルDACに、という使い方を想定していると、こまめに接続端子を変えて充電するクセをつけないと、いざ外出時にバッテリーが空っぽという事態になります。これはちょっと面倒臭いですね。

ちなみに1AのUSB充電器で満充電まで4時間ということです。ためしに、完全放電状態からタブレット用の2A急速充電器と2A対応ケーブルを使ってみましたが、充電ランプが消えるまでピッタリ4時間かかったので、あまり効果は無いようです。

2A充電器を使っても、0.87Aで頭打ちでした

OPPO HA-2のように専用の5A急速充電器が同梱してあって、パソコンでDAC使用中に充電、さらに外出先では接続してあるiPhoneをも充電してくれるという、至り尽くせリの製品デザインと比較すると、Mojoは使い勝手が悪いです。

使用中のバッテリ残量は小さなLEDランプの色で状況が確認できます。筐体がかなり暖かくなるので驚くかもしれませんが、過去のChord製品に慣れているユーザーであれば気にならないレベルです。

ヘッドホン出力レベル

ヘッドホン出力の電圧を測定してみました。ヘッドホンアンプの性能は歪み率や高周波特性など、単純に出力だけの問題ではないのですが、現実問題として十分な音量が確保できないとリスニングすら満足にできないため、供給電力に限りがあるポータブルアンプにおいては出力電圧は重要な要素です。

たとえば、歪み率が高くても「良い音」だと感じるアンプはありますが、音量不足でお気に入りのヘッドホンが頭打ちではお金の無駄になります。このヘッドホンアンプはIEMに特化した商品なのか、それともHiFiMANなどの平面駆動ヘッドホンまで鳴らせるのか、というのは重要なポイントだと思います。

最大音量での出力

上記グラフはいつもどおり192kHz 24bitの1kHz 0dBFSサイン信号を再生したものです。まず驚いたのは、これだけコンパクトなポータブル製品なのに、無負荷時でのクリッピングしない最大出力電圧がなんと14Vp-p (5VRMS)も得られることです。また、徐々に負荷を与えていくと、100Ω程度までほぼ定電圧駆動で、それ以降も安定して高電圧波形を維持しています。

グラフでは据え置き型のLehmann LinearやBeyerdynamic A1と比較しています。これらはアナログアンプなので、どちらも2Vp-pを入力した状態の電圧ですので、ソースの電圧次第では20Vを超える高電圧駆動も可能なのですが、単純に負荷インピーダンス特性として比較すると、Mojoは大型ヘッドホンからIEMなど、どのような負荷でも非常に優秀なことがわかります。

iFi micro iDSDとの比較

14Vp-pというと、iFi Audio micro iDSDの「ノーマルモード」とほぼ同等ですが、低インピーダンス側を見ると、あちらも50Ωを切ったあたりからクリッピングを起こします。実際50Ω以下のIEMのでそこまでの高電圧は必要とされることは稀なのですが(爆音で鼓膜を破ります)、世の中には低インピーダンス+低能率なヘッドホンも存在するため、そういった用途でMojoはここまでの安定した高電圧出力を維持できるのは関心します。

Oppo HA-2、AK240との比較

ちなみに、OPPO HA-2と比較すると、Mojoのほうが高インピーダンスヘッドホンの駆動に適していることが分かります。IEMなどではどちらも十分なパワーが発揮できるので、音色の好みの問題になります。AK240のようなDAPは、高価であってもやはり出力が若干低いですね。

音量を上げ過ぎるとクリッピングする(無負荷状態)

Mojoで唯一の注意点は、ボリュームを最大音量にすると、無負荷時でもクリッピングを起こしてしまうということです。ボリュームが90%くらい上がりきった状態で14Vの頭打ちになり、それ以上音量を上げると上記のような波形になります。(0dBFS波形なので、実際の音楽よりも誇張した状況だということは考慮してください)。

つまり、ものすごく低能率なヘッドホンを使用時に、どうしてもボリュームを最大付近にまで上げる必要があったとしたら、クリッピングが発生するということです。

また、Mojoをライン出力DACとして活用する場合には、よく昔の人がやっていたような「音量を最大にすればライン出力」といった使い方はできないので(アッテネーターではなくブースターなので)、Mojoではライン出力用途に専用の隠しモードを用意しています。

ともあれ、このコンパクトな筐体からは信じられないような高出力アンプですね。

ライン出力

Mojoはボリュームボタンを同時に押しながら電源投入すると、固定ライン出力モードになります。
スペック上3Vということですが、実測してみると無負荷時に1kHz 0dBFS信号で3.1VRMS(9Vp-p)が出力され、50Ωの負荷でも3.08VRMSをキープしてるので、ライン出力としては極めて良好というかオーバースペック気味です。

3VRMSというのは一般的なライン出力よりも電圧が高いので、(通常の家庭用オーディオは1-2V程度です)、そのせいで「音質がパワフルになった」と錯覚しないように注意が必要です。

もちろんライン出力モードでもバッテリーは消費するので、もしMojoを据え置き用途で活用するのであれば、充電用にもう一本のマイクロUSBケーブルが必要になります。

2つのヘッドホン出力

Mojoには2つのヘッドホン出力が搭載されていますが、これらはアンプが共通しており、回路のフィードバックにも影響するため、メーカー想定外の使用には注意が必要です。出力インピーダンスが低いということは、2つのヘッドホンが干渉しあう可能性があるため、たとえば片方の出力に負荷を与えると、もう一つの出力も同様に負荷が現れます。

ヘッドホンのインピーダンスというのは周波数ごとに異なるため、一種のEQフィルター効果があり、2つヘッドホンを併用する際にはこの影響が現れる可能性があります。たとえば、未使用の出力プラグにヘッドホンを挿しっぱなしにしておくと、出音が若干変わったりするかもしれません。

音質について

スペックや動作などについての前置きが長くなってしまいましたが、(それだけ書くことが見つかるというのも珍しいですが・・)、肝心の音質についてまとめます。

Chord Mojo



まず最初に、普段使い慣れているベイヤーダイナミックT51pにて、BISレーベルからスドビンとヴァンスカのベートーヴェンピアノ協奏曲3番を聴いてみました。

BISは近年における高音質クラシックレーベルの最大手で、最近マニアックなピアノ協奏曲ばかりリリースしているスドビンはかなりの名手なので応援しています。ヴァンスカはミネソタ管弦楽団を指揮したベートーヴェン全集を同レーベルから5年ほど前に出しましたが、SACDの高音質とともに、近年稀に見るオーソドックスでしっかりとしたベートーヴェン交響曲集で愛聴しています(ベタですが9番は素晴らしい解釈です)。

Mojoの話に戻りますが、第三楽章はピアノ独奏から始まるのですが、開幕の0.5秒で「あ、これはChordの音だ」と直感してしまい、思わず吹き出しそうになりました。ピアノのたった第一音だけで、なにか感じるものがあるというのは不思議なものですね。

そのままいくつかのアルバムをT51pで聴いて、AKG K3003やベイヤーダイナミックAK T8iEなども使ってみたのですが、やはりMojoはChordらしい音色の素晴らしいDACだと感じました。

Chordらしいというのは、まず中域にしっかりとした存在感と透明感があり、一音一音の質感がきめ細かく、アタックや響きは控えめで、空間の奥行きが広い、というふうに思えます。そういった意図的な味付けというよりは、綺麗な水のようなサウンドです。


オペラ録音では、クライバー指揮の椿姫を88.2kHz PCMで聴いてみましたが、やはりChord独特の質感が印象的です。ヘッドホン、IEMを問わず、歌手の口から発せられる音が、流れるように澄み渡り、周囲の空間も情報が豊かでありながら混雑していません。

普段聴き慣れているのは、もっとカチッ、ドシッとした音作りで、アタック感やインパクトでサウンドにメリハリを与えるようなタイプが多いのですが、Mojoはそれとは真逆で、「じっくり、しみじみと音楽の美しさを楽しんでください」と語りかけているような感じです。付帯音の残響を強調しているわけでもなく、なおかつモニター調に切れ味良くドライというほどでもなく、不思議と奥深く音楽を「目の前に描いている」ような感じです。

とくに、B&W P7などの密閉型ヘッドホンですら、今までさほど前方空間定位などを考えていなかった録音でも、頭外にふわっとした音場を描いているのは不思議な体験でした。活き活きとしているので、ふわっとしても篭っているとは感じないのですが、その反面、抑揚やアタック感があまり無いとも思います。

また、一番驚いたのは、これまでずっと硬質で聴きづらいと思っていたソニーMDR-Z1000が非常にリッチで響き豊かに感じられたことです。つまりMojoが硬質な部分を抑えてくれているため、MDR-Z1000に本来備わっている潜在能力を発揮できたのかもしれません。

よく考えてみると、たぶん他社のDACと比べて耳障りなアタック音が少ないので、普段以上に音量を上げて細部まで観察できている(そのため中音域の質感が顕になる)のだと推測できます。

たとえば、個人的にOPPO HA-2は大好きなDACなのですが、Mojoと比較すると全体的に硬質で押し出しが強く、アタックに金属感があります。これはOPPO HA-2が悪いというわけではなく、このHA-2の音色こそが、ごく一般的な「良質なヘッドホンアンプの音」だと思っています。なので、Mojoを聴いたあとにHA-2を使うと、「やっぱり普通の音ってこうだよな」と再確認できます。

iFi micro iDSDもMojoと比較すると軽めのサウンドで、とくにスピード感を重視してハキハキとしている印象を受けます。そのため若干聴き疲れしやすいタイプの音とも言えます。

MojoはこれらのDAC・ヘッドホンアンプとは違い、中域の一音一音の表面的な質感を目一杯聴かせるようで、決して高音がシャープだとか、低音がボンボン響くといった感じではないのですが、録音に記録されている情報を十二分に引き出す能力があります。

先ほどのピアノの例もそうですが、たった一音だけの響きで、独特な質感を感じ取れるのがChordの魅力だと思います。


ジャズでは、Criss Crossレーベルからダニー・グリセットの新譜「The In-Between」を聴いてみました。グリゼットのインテリとスイングが融合したようなピアニズムはいつ聴いても爽快ですが(前作の「Stride」も素晴らしいアルバムです)、今回はサックスでゲスト出演しているウォルター・スミス三世が個人的に大ファンなので、彼のサウンドをMojoを通して聴くのが非常に楽しめました。

じっくり丁寧にサウンドを繰り出すスミスのサックスは、高音質DACでよくありがちな、グッとサウンドステージの前面に浮き出るような感じではなく、ソロ中でも基本的にバンドのアンサンブルの一員としてバランスよく表現されています。

実は、ベースやピアノの低音部分が想像以上に豊富に聴こえて驚きました。Mojoはここまで低音を出すタイプでは無いと勝手に思いこんでいたのですが、それは多分QuteHDやHugoなどの過去のChord製品の印象からだと思います。

以前Hugoを試聴した時と比べると、Hugoのほうがもっとドライでシャープなレスポンス重視のサウンドだったような気がします。(Mojoほど中低域の質感を出していなかったと思います)。

とくに、ベースの弾かれる音や、ドラムのトム音に粘りがあり、音楽のバランスを土台のしっかりした三角形のように仕上げています。

大型ヘッドホンの駆動

次に、ゼンハイザーHD800とAKG K812でクラシックのアルバムを幾つか聴いてみました。

ちなみに、冒頭の写真のように、HD800はADLのiHP-35H/1.3mという短いケーブルに交換してあります。また、6.35mmから3.5mmへの変換には、Gradoの変換アダプタが高品質で使い勝手が良いためおすすめです。

クラシック録音のように平均音量が低いアルバムの場合、OPPO HA-2ではHD800とK812の両方で音量が不足してしまい(ハイゲインモードです)、また、iFi micro iDSDでも、ノーマルモードではボリュームが頭打ちで、ターボモードに切り替える必要がありました。

600ΩのHD800は高電圧が必要なのは納得できますが、K812は36Ωという低インピーダンスなので本来ならば十分な音量が取れるはずですが、96dB/mWと駆動能率が悪く、非力なアンプでは電流不足で芯の無いの音になってしまいます。普段K812を使用する際は電流駆動のGrace m903という据え置き型アンプを使っているので、このような問題はあまり感じられませんが、micro iDSDなどを使うと、音量は十分出てうるさいのに、シャカシャカ、スカスカな音色になってしまいます。

OPPO HA-2でこれらを駆動するのは諦めて、micro iDSDとMojoの比較になったのですが、MojoではHD800、K812の両方で十分な音量とパワフルな音色を実現できました。Mojoが凄いと感じたのは、ボリュームを上下してもヘッドホンの音量が変わるだけで、音色の響きやエネルギー感などが一切変わらないことです。つまりコンパクトなポータブルヘッドホンアンプでありがちな、「一応鳴る」といったレベルではなく、HD800でさえ中低域が肉厚で質感豊かに聴こえます。

iFi micro iDSDの場合は、アルバムごとにノーマルモードとターボモードを切り替えるようなギリギリのレベルだったのですが、ノーマルモードではボリュームノブが上限ギリギリで音がスカスカ、ターボモードでは音が暴れまくって安定してくれない、というジレンマがありました。つまり音量やモードによって音色がかなり変わってしまいます。

これらの考察は、平均レベルが低いクラシック録音での体験なので、最近のポピュラーアルバムなどでは、たとえOPPO HA-2であっても十分な音量が得られるケースが多いです。(参考までに:http://sandalaudio.blogspot.com/2015/09/blog-post_29.html)、ただ、やはりどの音量でも音質が劣化しない、というのはChord Mojoのみの特権でした。

ちなみにHD800よりも能率の悪いHiFiMANのような平面駆動型ヘッドホンは手元に無いのですが、機会があればヘッドホンアンプキラーのHE-560などで試してみたいです。(今後試したら報告します)。

追記:友人の好意で、HiFiMAN HE-560と、なんとHE-1000もMojoで試聴することができました。

HiFiMAN HE-560と

なんと、HE-1000とも使えました(LED色はリスニング中の音量を表しています)

どちらも、ボリュームをMAXまで上げなくても十分な音量が出せました。Mojoのボリューム位置は曖昧なのですが、LEDの色で言うと、「緑・緑」の状態で適正音量でした。

HE-560はもともとダークで繊細な音色のヘッドホンなため、Mojoでも音やせしているような印象は無く、ごく一般的な据え置き型ヘッドホンアンプで利用するのと同等かそれ以上に音楽的に満足できました。HE-1000は、音量的には十分に出せるのですが、若干一音一音が塊になってしまい、分解能が悪いように思えます。以前別のアンプでHE-1000を試聴した時のような鮮烈な活き活きとしたイメージは、残念ながらMojoでは発揮できなかったようです。

Mojoの悪い点

完璧に思えるChord Mojoですが、やはり悪い点というのもあります。

Mojoの悪い点は、どんな音楽を試聴しても感じる、「Chordっぽい音がする」ということです。つまり音楽に対してニュートラルであるべきDACが、あまりにも自己主張が強いため、音楽を聴いている間、つねにMojoの存在感(というか貢献度)を認識させてしまいます。

これはべつにChordが意図的にサウンドをいじっているというのではなく、一般的な他社製DACとサウンドのコンセプトが異なるため意識しやすいのだと思います。たとえばOPPO HA-2やLehmann Linearなどの場合、これらは「ごく一般的な優良アンプのサウンド」なので、それがOPPOなのかLehmannなのかはあまり気にすることがありません。単純に、高級モデルになるにつれてパワーの余裕や解像感が増すだけです。しかしMojoの場合はそれとは別系統のChordらしい質感というのが浮き出ています。

独特の音作り自体は悪いことではないと思いますし、このサウンドのおかげで世界中に熱烈なChord信奉者がいるのは納得できるのですが、少なくとも無難な音ではないので、気に入らない人もいると思います。

たとえば、新型ヘッドホンの評価をする場合などには、私自身はMojoを使ったらMojoの音の評価になってしまうため、どうしても「普通に良い音」のLehmann Linearなどを使いたくなると思います。

さらに、Mojoを聴いていてもう一つ気になった点は、音色の質感を強調し過ぎると良くない場合もあるということです。具体的には、古いアナログ録音のデジタルリマスター盤などを聴く時です。


ブルーノートのフレディ・ハバード「Open Sesame」は1960年の超有名盤で、最近では米国のAudio WaveというレーベルがリリースしたK2 XRCDバージョンが非常に高音質です。

ハバードのトランペットや、クリフォード・ジャーヴィスのセンスが良いブレイキーのようなドラムなどは、Mojoを使うことで力強くリアルな質感を楽しめるのですが、それと同時に、ヒョロヒョロというテープ歪みや、レガートで音を伸ばす時のざらついた粒子っぽい質感なども他社のDACと比べて耳障りに感じます。

そもそも、冒頭で述べたように、Chordのポリシーがデジタル音源の忠実再生ではなくオリジナルのアナログ音源の復元なのだとしたら、それは結局「アナログテープの音」になってしまうので、本来の意味での原音ではありません。Chordが微小なデジタルノイズの変動を悪としているのであれば、アナログテープのノイズ変動はさらに数倍酷いです。

ということで、古いアナログ録音を聴く場合には、たしかにアーティストの表現力や音場空間の広大さは凄まじいのですが、場合によってはアナログ由来のノイズや歪みなどもかなりリアルに再現されてしまいます。

ノイズや歪みが聴き取れるというのはDACの性能が優秀な証拠で、Chord社のオーディオ機器が世界中の一流レコーディング・スタジオのマスタリングルームなどで採用されている理由でもあると納得できるのですが、我々のようなリスニング専門のオーディオマニアにとっては、もうちょっと質感を抑えてドンシャリのインパクト重視の音色のほうが万人受けするのではないかと思いました。

もうひとつ、Mojoを長時間使用していて体感したのが、意外にも耳への負担です。普段ではリスニング中にシャープで不快なアタック音などを感じてボリュームを無意識に調整しているのですが、Mojoではこのようなシャープな音が他社のDACと比べて出にくいため、知らない間に普段以上にボリュームを上げていることが多いと気づきました。

つまり、今までのリスニングよりも中低域の平均音量が多い状態になってしまっているため、10分くらい音楽を聴いていたら、普段では感じたことの無いような耳への疲労感というか圧迫感を感じます(大音量のコンサートやクラブイベントで感じるアレです)。

もちろんこれはMojoが悪いわけではなく、それだけ不快音を出さずに音楽の質感を出せるのは賞賛すべきなのですが、今まで以上にリスニングの音量に注意が必要です。そして、Mojo特有の美音の真価が発揮できるのは、このように普段よりちょっとだけボリュームを下げた状態だと感じました。

まとめ

Chord Mojoは、Chordの伝統を受け継ぐDACとして、それにふさわしい性能を持った素晴らしい製品です。

とくに、Hugoのコア部分をこれだけコンパクトな筐体に、そしてこれだけ低い価格設定でリリースしたというのは、まさに驚異的です。私のように、25万円のHugoは高すぎるけど、この価格だったら試しに買ってみようかなという人も多いと思うので、ベストセラーになることが約束されたような商品です。

充電方法やスマホとのUSB接続などの実用面で若干面倒な部分もあるので、使い勝手においてはOPPO HA-2などのほうが一枚上手だと思いますが、それらを補うだけの素晴らしい音質を備えています。

Chord特有の、中域の質感を重視した繊細で彫りの深い音色は、オーディオマニアとして一聴の価値があります。また、上位モデルのHugoとくらべて中低域の量感が増し、アタックのヌケや解像感は控えめになったように思えます。シャープな高解像系の音ではないので、他社製品と比較するとインパクトに欠けるかもしれませんが、一音一音の質感や空間の豊かさは類を見ないレベルです。

また、このサイズからは想像できないようなパワフルなヘッドホン駆動力を持っているため、多くのハイエンド据え置き型ヘッドホンアンプを凌駕するようなパフォーマンスを発揮して、HD800などの難しいヘッドホンも軽々とドライブします。Mojoが登場してくれたおかげで、ようやく「大型ヘッドホンを駆動できるポータブルアンプなんて技術的に不可能」という通説が崩壊しはじめる前兆のような気がします。

同様なDAC・ヘッドホンアンプを展開している他社にとっては、もはやこの価格で、このスペックと音質を要求されるのは、今後の商品開発において、とてつもなくハードルが上がったような気がします。

それにしても、ここ数年間のヘッドホンブームにおける技術革新のペースは凄いとつくづく実感できる、Mojoとはそういった商品です。

追記:後日不具合などがあったので追記があります

http://sandalaudio.blogspot.com/2015/12/chord-mojo-dac.html