2015年3月10日火曜日

オーディオテクニカ ATH-MSR7のレビュー

オーディオテクニカのヘッドホン ATH-MSR7を購入しました。

このヘッドホンは2014年11月に発売された一般向けヘッドホンで、2万円台の価格なので、本格的オーディオのエントリーモデルといった位置づけです。





最近ソニーが主導している「ハイレゾ」ブームはオーディオ機器市場の活性化に貢献しているようで、各社から色々な新開発ヘッドホンが登場しています。

このオーディオテクニカATH-MSR7も、ハイレゾをポータブルで気軽に楽しむといった方向性のヘッドホンなので、同じ価格帯のオーディオテクニカの代表的なヘッドホンATH-M50xモニターシリーズとは一線を画した商品です。

まずはじめに、だれでもが思ったけど言い出しにくいことですが、このATH-MSR7はソニーのMDR-1R・MDR-1Aシリーズに瓜二つです。ATH-MSR7のほうが後発なので、オーテクはソニーのパクリと思われても不思議ではありません。


左:ATH-MSR7 右:MDR-1A

並べて比べてみると、ほんとにそっくりですね。ケーブル接続位置は違いますが、パッドやヘッドバンドの形状、ハウジングの回転機構などはとても似ています。そして今回あえて被らないようにブラックではなくガンメタル色を選んだのですが、赤の差し色が似てしまいました。

しかし、そこは老舗のオーディオテクニカですから、細部にわたって色々な違いがありますので、簡単なレビューで確認しようと思います。

化粧箱はマットブラックに光沢のある写真を使っており、それなりに高級感はあります。内箱は一般的なプラスチックに黒いガーゼ布をかぶせたものにヘッドホンが圧入してあり、ケーブル類は紙箱に入っています。やはり値段が安い商品なので、開封の満足感は低いです。先日レビューしたゼンハイザーHD8 DJとはえらい違いです。

付属しているケーブルは、1.2mのリモコン有り、無しと、3mストレートです。どれも同じ材質のようです。
付属品一覧

今回はガンメタル色を選んだので、イヤーパッドとヘッドバンドがブラウンレザーということで、それに合うようにケーブルも茶色になっています。同時発売のブラックモデルはケーブルが黒です。ちなみに初回限定モデルのレッド(ATH-MSR7LTD)はケーブルは黒ですが、コネクタ類が赤くなっています。

一つ不思議なのは、3mのロングケーブルを同梱しているのに、どのケーブルも3.5mmミニジャックで、6.25mm変換プラグが付属していないことです。まあポータブル用途ですし、変換プラグはみんな必ず一つは持っていると思うのであまり気になりませんが。

ケーブルのヘッドホン接続部分
付属の1.2mケーブル
ケーブル自体は細いのですが、意外と張りがあって取り回しが厄介なタイプです。絡まりにくいのですが、表面がシリコンゴムっぽい引っ掛かりがあり、線材もクセがなかなか取れないです。実際DAPと接続して歩きながら使っていたら、ケーブルが洋服に引っかかってプラグが抜ける、といった普段は無いようなことが何度か発生しました。なんとなく理科の実験などで使っていた電線や、電気のテスターなどに使われているケーブルと似ています。

ソニーのMDR-1Aはギザギザの入った柔らかくて滑りやすいケーブルを使っていました。オーディオテクニカはヘッドホンの機種ごとにケーブルの形状がバラバラなので、そろそろ独自開発の柔らかくて絡まりにくいケーブルを開発してもらいたいです。

プラグは3.5mmのL字型で、しっかりしたロゴ入りのものです。L字とストレートは、どちらが良いか論争になりますが、結局接続するデバイスによって好みがわかれるので、各社が統一する気配は無いですね。ゼンハイザーMomentumに使われていたような、L字からストレートに変形できるプラグを他社も採用してほしいです。

ヘッドホン側のコネクタは、3.5mmステレオで、段差が設けてあるのでリケーブルは厄介かもしれません。



ヘッドホンの外観は、パッと見てわかるとおり、メタリックな光沢とレザーの落ち着いた表現で、非常に高級感のあふれるデザインです。こうやって見るとMDR-1Aとの違いがよくわかります。今回は個人的に気に入ったガンメタルを購入しました。赤いアクセントがアノダイズドのような光沢で、あまり派手にならず良いです。ハウジング外周が銀色に光るように面取り加工してあったり、ボディのガンメタルも良い選色だとおもいます。

ブラックモデルの方はブルーのアクセントが使われているのですが、中途半端な使い方なのであまり気に入りませんでした。限定モデルのレッドは、写真で見た時は良いと思ったのですが、実際に手にとってみると各パーツのメタリックレッドの質感や色がバラバラに違っていたので、どうも好きになれませんでした。というわけで今回は限定という言葉に騙されず、通常モデルのガンメタルを選びました。ちなみにレッドは在庫限りなので、アマゾンとかではプレミア価格になってます。



ヘッドバンド調整機構
個人的にとても気に入っているのが、ヘッドバンド調節機構のパーツです。このグレードのヘッドホンとしては珍しいほどしっかりと強度を持たせた作りです。上下のパーツの間に指が入るように斜めにカットされていおり、メタルバンドが露出しているのがアクセントになっています。メタルバンドの内側にケーブルを通すパーツが作りこまれているのも、信頼性が高そうで好印象です。


ちなみにRIGHT・LEFTの表記はちょっと地味というかカッコ悪いです。オーディオテクニカのヘッドホンは基本的にどのモデルもRIGHT・LEFT表記がカッコ悪いと思います。(高級モデルの筆記体とか)。AKGのK550などのように、パッド内部にでっかくL・R印刷してあるのが、機能性とデザイン性を両立していて気に入っています。


ハウジング下のポート

ハウジングとヘッドバンド接触部分に黒いゴムがついてる

ATH-MSR7をじっくりと手にとって眺めていると、細部のディテールがとても上質に作りこまれていることに気が付きます。例えばハウジング下部にあるポートには細かいメタルのメッシュが使われていますし、ハウジングがヘッドバンドに接触する部分には四角いゴムの緩和材が配置してあります。全体的な質感も重厚でソリッドな手触りで、ATH-M50xのようなプラスチックのおもちゃ感がありません。



ハウジングを回転した状態
ハウジングを回転させると、写真のようになります。90度回転なので、ATH-M50xのような180度ぐるぐる回転するような仕様ではありません。

この回転についてですが、通常のヘッドホンと回転が逆方向です。例えば上記の写真の状態から手に取って装着しようとすると、左右逆になってしまいますね。普段テーブルにこの状態で置くので不便です。ソニーもMDR-1RからMDR-1Aにモデルチェンジした際に、このATH-MSR7のように逆向き回転に仕様変更しました。

本来ならば、回転機構というのはDJなどが片耳だけを手で押さえて音を聴く、「片耳モニタリング」のために存在する機能だったので、過去の定番DJ用ヘッドホン、ソニーMDR-Z700などの頃から現代まで、片耳を押さえた際に、ヘッドバンドが後ろに回転する、というのがルールでした。しかしそれだと「ヘッドホンを首に掛けた際にドライバ側が上に来て、メーカーのロゴが隠れてしまう」といった理由から、MDR-1AやATH-MSR7は逆方向に変わったようです。

折りたたんだ状態で収納できるキャリーポーチのような袋が付属しています。なんてことはない黒い合皮のやつですが、オーディオテクニカのロゴが立体的になっているのは格好良いと思います。


イヤパッドの表と裏
左:ATH-MSR7  右:ATH-M50x
イヤパッドは簡単に取り外せます。形状はATH-M50xのものと似ていますが、サイズがM50xのほうが若干大きいので、付け替えてもピッタリとフィットしません。ちなみにM50xのイヤパッドはドーナツ型ですが、ATH-MSR7のは顔に当たる部分が平面になるように、立体縫製のバウムクーヘン型です。クッション材はM50xと同じようですが、MSR7のほうが柔らかいレザーっぽい素材を使っています。


ドライバは透明なプラスチック
イヤパッドを外すとドライバハウジングが露出します。最近よく見るようになってきた、ドライバを耳に対して斜めに配置した形状です。ポートのチューニング用でしょうか、白い紙が周囲に貼ってあります。

ATH-MSR7とATH-M50xのドライバ比較
ATH-MSR7とATH-M50xを並べて比較してみると、おなじ45mmサイズのドライバということもあり、とても似て見えます。広報パンフレットだとM50xが「大口径CCAWボイスコイル」、MSR7が「True Motionハイレゾドライバ」ということですが、具体的な違いはわかりません。

オーディオテクニカの45mmドライバを使ったOEMヘッドホンはいくつか持っていますが、どれも音質が違うので、ドライバが似ているからといって音が似ているとは限らないのが、ヘッドホンの面白いところです。たとえばハウジング構造はドライバと同じくらい音に貢献する重要な要素だと思います。

左:ATH-MSR7 右:MDR-1A
ソニーMDR-1Aはドライバのサイズが一回り小さいですが、配置などは似ています。イヤパッドは、ソニーのほうは3次元縫製で耳下のほうがパッドが厚くなるような形状です。ソニーは爪でパチパチとはめるタイプなので、ATH-MSR7とのパッドの付け替えは難しいようです。



上:ATH-M50x   下:ATH-MSR7
ATH-M50xのヘッドバンドには、オーディオテクニカのロゴが大きくエンボス加工されておりインパクトが強かったのですが、ATH-MSR7のヘッドバンドにはなにも刻印がありません。質素で地味なデザインなので、この辺はもうちょっと面白くしても良かったと思います。

ATH-MSR7とATH-M50xの比較
 並べてみると、ハウジングやヘッドバンドのサイズなどは似ていますね。質感はATH−MSR7のほうが数倍優れています。




肝心の音質についてですが、ここは主にライバル機種であろうATH-M50xと、ソニーMDR-1Aと比較してみます。

装着感は、まず側圧が非常に強いのが意外でした。一応ポータブルのカジュアルユーザー向けというモデルなので、もうちょっと緩い設計かと思ったら、MDR-1AやATH-M50xなどと比較すると格段に締め付けがきついです。ゼンハイザーHD8 DJや、ソニーMDR-Z1000などのスタジオモニターと同じくらいの側圧なので、この感触が苦手な人にとっては厳しいかもしれません。イヤーパッドは頬にピッタリと吸着するため、圧迫感や痛さはあまり感じられないのですが、2~3時間装着していると、さすがに蒸れたような不快感があります。とくに、メガネ常用の人は要注意でしょう。

側圧が強いことのメリットは2つあって、まず遮音性が良いので、出先でのポータブル用途には適していると思います。通勤用などなら、連続して数時間使うことは無いと思うので、蒸れや痛みの心配はあまり無いでしょうし、側圧の緩いヘッドホンで外部ノイズや音漏れを気にするより、これくらい強いほうが安心できます。意外と知られていないことですが、側圧が強いとヘッドホンの重量の多くをイヤパッドの圧力で支えているため、ヘッドバンドの頭頂部があまり痛くならないということです。反対に、側圧が緩いとすべての重量が頭の上にかかってきます。

もう一つのメリットは、ハウジングと耳の位置関係がしっかりと決まるので、ズレて音色が変わったりする問題が少ないです。大型のヘッドホンでよくありがちなのは、イヤーパッドが大きすぎて、耳に合わせる位置によって音色が大きく変わる問題があります。また、ちょっとベッドで横になったりするとパッドが押し付けられたりズレたりして困るのですが、このATH-MSR7はずっとベストポジションを維持してくれるのが、意外とありがたいです。

とはいったものの、家庭用で映画鑑賞やネット動画を見たりとか、長時間カジュアルに使うには、側圧の強さは問題になるかもしれません。そういった場合は、側圧ユルユルでフィット感良好なMDR-1Aなどの方がオススメです。


音質について、ATH-MSR7の第一印象は、「思ったより濃厚な音像だけど、分離が良い」、面白いヘッドホンだということです。

全体的なプレゼンテーションは、なんとなくゼンハイザーのモメンタムっぽいバランスで、さらにクリア感を増したような印象を受けました。

聴き始めてすぐに感じたことは、低音と中高音の出てくる場所が違うような、不思議なサウンドステージ、空間表現です。これは低音のポート位置などにも影響しているのかもしれませんが、非常に上手に使っていると思います。

具体的には、このヘッドホンは中低音が多少盛ってあるので、通常のヘッドホンならそれが全体的なヌケの悪さや篭もりに繋がるのですが、ATH-MSR7の場合、空間的な分離のおかげで上手に帯域分けをしているため、音楽の肝心な部分が低音に邪魔されるとことをあまり感じさせません。高音域は前方定位のような、若干遠く頭の上のほうで鳴っており、低音は左右に広がりながら耳より低い定位で響き渡るので、サウンド効果としては気持ちが良いです。

低域については、あまり体に響く重低音や、深いところまで鳴っているようには感じられないです。コントラバスなどもアタック部分の弓や指の動きはよく聴こえるのですが、そこからズーンとくるといったわけでもなく、電子音楽のキックドラムも、張りのあるアタック感の後には、あまり響くような低音は感じられません。アタック重視で自由に響かせずに上手にダンプ制御されている、といった印象です。ハウジングの共振や篭もりがあまり感じられないのも、こういった理由からかもしれません。ATH-M50xはもっと低音を響かせるような音作りで、若干残響音が被ってしまう問題があるので、ATH-MSR7とは対照的です。

エージングに関しては、開封後と、20時間ほど鳴らしこんだ状態で比較してみましたが、帯域の分離はだいぶ良くなったと思います。開封後は中低域がセンター付近で固まって鳴っており、ちょっと耳障りだなと思っていたのですが、鳴らしこんだ後は、上手に広がりが増したので、エージングの効果は多少あるのかもしれません。


ATH-MSR7はATH-M50xと比較して、高音がずいぶん整えられていると思います。ATH-M50xでは結構シャラシャラした音が気になるのですが、ATH-MSR7ではその辺が上手に聴き取れる音色になっています。よくレビューなどで「サ行が刺さる」などという表現が使われていますが、ATH-M50xについてはこの表現が一番的確だと思いました。ハイハットの鳴り響きが常に気になる存在です。また、上記のように低域の振動もATH−M50xのほうが強い表現なので、全体的に見てレンジが広いけれどあまり安定していないのがATH-M50xで、逆に音色部分にフォーカスして、ムダな広域特性は押さえ込んでいるのがATH-MSR7だと思います。


ソニーMDR-1Aと比較してみると、音色の差は明らかなのですが、どちらが優れているとも言い切れない難しい選択になります。

まずプレゼンテーションが大きく違います。MDR-1Aはどちらかというと、上質な開放型ヘッドホンのように、広域のヌケの良さと深い低音を重視しており、なんとなく音数の少ない余裕を持った鳴らし方です。とくに演奏者数の多いオーケストラ楽曲などでは、あまりお互いが重なり合わないため見通しが良いです。空間的にも、ATH-MSR7よりも数十センチくらい自分の頭から離れた位置から音が鳴っているようなイメージです。反面、楽器そのものの存在感が薄いので若干さらっと聞き流してしまいがちです。たとえば金管楽器などは楽器そのものよりも、音が鳴り響いているホールの空間を強く感じとれます。

ATH-MSR7はそのまったく逆で、音の密度がとても高い演出です。空間表現は的確で悪くないのですが、全体的に自分に近い位置で鳴っており、前方定位的な雰囲気が強いです。MDR-1Aはもっとサラウンドっぽく分散させているのですが、ATH-MSR7はそれぞれの楽器が自分の目の前ではっきりとした場所に配置されているようです。例えばおなじオーケストラ楽曲でも、ヴァイオリンなどの弦楽器が非常に濃密に音色が響きますし、各パートごとの位置決めがはっきりと感じ取れます。管楽器もホール残響などよりもダイレクトな出音がよく聞き取れます。しかしデメリットとしては、このような濃い音色のため、色々と小さい空間に詰め込んでいる感じがします。たとえばトゥッティで大音量、ティンパニがゴロゴロと鳴っているような状況だと、ちょっと圧倒されて聴き分けができなくなってしまいます。制動力が強くドライバやハウジングの自由振動に任せるような響き方をしていないようなので、そういった意味で余裕が無いように感じられます。

ヘッドホンの限界まで特性を追い込んで、MAXまで鳴らしきっているようなので、開発者さん達の苦労や努力が伺えます。このへんが若干の余裕の無さとして現れてしまい、さらに上位クラスのヘッドホンとの差なのかもしれません。とはいっても、値段的にすこし上のATH-ASW9などのほうが確実に音質が優れているとは言えないので、このATH-MSR7よりも上のクラスというと5万円以上の機種になってくると思いますし、ポータブルで密閉型というと選択肢はかなり限られていると思います。


トータルで考えると、ATH-MSR7はコストパフォーマンスに優れた、音楽再生重視の、非常に優れた設計のヘッドホンです。適当にMDR-1Rをパクって組み上げたようなヘッドホンではなく、開発者さん達の心がこもった、完成度の高い銘器だと思います。

同価格帯のソニーMDR-1Aと比較すると、どちらが優れているかというよりは、使い分けで選ぶような違いになります。

たとえば、家庭で動画やエキサイティングな大爆発の映画を鑑賞したり、複雑なオーケストラ楽曲をカジュアルに楽しみたいなら、断然MDR-1Aのほうが優れていると思います。軽やかで疲れにくい装着感や、低音のインパクト、そして自然や風景のキラキラした空間演出が、MDR-1Aの良いポイントです。

ATH-MSR7は、自分の趣味の音楽を、ポータブルアンプなどで外出先でじっくり楽しみたい、サウンドに没頭したい、といったユーザーに向いています。強めの側圧は遮音性という意味ではメリットになりますし、生楽器の表現力、中域の骨太な実在感がATH-MSR7の強みだと思います。高音が耳障りにならず上手に表現されていると思うので、ロックなどで多少録音状態が悪いものでも、音色重視で楽しめます。

同じくオーディオテクニカのATH-M50系列は、長年この価格帯のレファレンス的存在として愛されてきましたが、今回のATH-MSR7の高級感あふれるデザインを手にとって感じてみると、どうしてもATH-M50xでは分が悪いです。ただ、ストリートでミュージシャンっぽく見せたい場合はやはりATH-M50xのほうがサマになりますね。ATH-MSR7の質感の良さと力強い音色は本当に素晴らしいと思うので、実機に触れたことがない人はぜひ試聴デモ機などを手にとってみれば、きっと納得していただけると思います。